三章

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 俺の姿も、変わる。  妖の……鬼の姿に。  やくざ、なんて、利益のために簡単に人を傷つけて生きる俺もまた『狐』の姿に収まるには、業が深すぎたんだ。  口の中に違和感を感じたかと思うと、急に歯がにゅっと飛び出て来た。  手には鋭い爪が生え……頭の耳の上が重い感じがするのはきっと、角でも生えたんじゃねぇかと、そう思う。  業により、鬼になり変わったのなら、もう、百鬼夜行から逃げられない。  行き先は、異界。  そして『死』だ。  すっかり姿が、変ったらしい俺を見て、風音が叫んだ。 「力也……っ!」  ああ、泣く。  風音が、泣く。  鬼の目に、涙をいっぱいためて。  ぽたぽたと落ちた水滴が、俺の頬に、二、三滴落ちて来た……と思ったとたん。  風音は、締めていた首を外して、俺の胸に、飛び込んで来た。 「……何だってっ……!  あなたは、そうなんですか!?」 「……ああ?」 「子どもの頃、あなたは、僕にあっさり肝っ玉を譲り!  今も、また死んでも良いと言う!  どっちも、理不尽だと怒って良いことのはずなのに……!」  叫ぶ風音に、俺は笑った。 「さあな。  確かに、怒って良いことなんだろうけど……結局。  ……俺は、お前が好きなのかも……しれねぇな」 「……あなたは、莫迦です!」  風音が、叫んで俺の胸を拳でトン、と叩いた時だった。  元は神社だった駅裏の空家の近くから、今まで一度も聞いたことのない鳥の鳴き声が聞こえた。  ゲッグ ゴゲゴッゴォォォォーーー  もっと爽やかな声だったら、きっと朝を告げる雄鶏にでも聞こえたろう。  けれども。  地を這うとんでもなく大迫力の声に、俺と風音は顔を見合わせた。 「……何だ、この声は!?」 「コカトリスの鳴き声です!」 fd6718d7-2a3f-44c8-880c-c707c820d5ae  そう。  現在の時刻は、4時44分。  百鬼夜行の夜が明け、異界への扉が開く時間だったんだ。
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