105人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
「何を言っている。
実際の肉体は、お前もコイツも現世の『病院』とかって所に有るんだろう?
ここにあるのは、魂の形。
骨だけ、されこうべ姿がうんぬん言うのなら。
巨大な骨だけ妖怪、ガシャ髑髏の立場は、どうしてくれる?」
……は?
人が一人……鬼が一匹。
喰い殺された、にしては案外と軽すぎる言葉を投げて、さっさとお経、とやらを上げ始めた鬼に、俺は目を剥いた。
「いいか!? コイツは……風音は!
今、妖に食われたんだぞ!」
俺が風音を呼んで叫ぶ声に、返事も出来ず、ただ白い骨を晒している、と言うのに……!
怒鳴る俺に、一通り経を読んで満足したらしい。
ヒトオニを弔うという弔い鬼は、落ちついて言った。
「確かにな。
怒りに狂った妖共に、魂のほとんどを食いちぎられ、返事も出来ない姿だから俺は『死骸』と言ったんだ。
しかし、どんな形であれ、妖ならば。
身体の一部が残れば、しばらく眠りのうちに、また戻るだろう」
「……風音は、妖じゃねぇよ、人間だ!」
怒鳴りっぱなしの俺に、弔い鬼は『ふうん、それにしては強いな』と首を傾げ、改めて風音を見ると、納得したように頷いた。
「他人の心の一部が、風音を支え良く守ってる。
それが、風音を真の妖並みに強くしている原因だな。
……これは、お前の肝っ玉、か?
『死んだら返す』契約になっているみたいだが、風音に酷く執着して、半分ほどが、まだ骨に残っている。
ここで、貸していたものを全て返せと言わぬ限り、おいそれと、この魂は、ばらばらになることも、消滅してしまうことも無いだろう」
……俺の肝っ玉が……魂の一部が、風音を守ってる?
肝っ玉は、丸まま一つ、と言う訳じゃねぇ。
砂かけの婆がサラサラの砂にして、風音にふりかけたんだ。
そのうち、半分ほど戻って来た、と言われれば。
こんな恐ろしげな鬼を目の前にして、なんとかぎゃぁ! と叫び声を上げずに済んではいるが……
俺でも……風音のために……何かができたんだろうか?
思わず、風音の骨の前で、へたへたと座り込んでしまった俺に、弔い鬼は、言う。
「そもそも、コイツは、妖を恐れ、一人で異界に行くことに怯えていた。
お前が、本当に寿命が尽きて、異界に来る日まで。
なにも見ずに、感じずに、この姿で眠ることは、ある意味、救いであるかもしれないな」
だから、そう、心配することも、泣くこともない、と弔い鬼に言われて、驚いた。
「泣く? この俺は、大の大人の、やくざだぞ!
そんな俺が泣いているなんて訳あるか!」
言った側から、一粒の水滴が、ぽたりと、自分の手の甲に落ちて、ピクリとする。
う……ううんと。
これは涙なんかではないぞ!
最初のコメントを投稿しよう!