三章

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「何を言っている。  実際の肉体は、お前もコイツも現世の『病院』とかって所に有るんだろう?  ここにあるのは、魂の形。  骨だけ、されこうべ姿がうんぬん言うのなら。  巨大な骨だけ妖怪、ガシャ髑髏の立場は、どうしてくれる?」  ……は?  人が一人……鬼が一匹。  喰い殺された、にしては案外と軽すぎる言葉を投げて、さっさとお経、とやらを上げ始めた鬼に、俺は目を剥いた。 「いいか!? コイツは……風音は!  今、妖に食われたんだぞ!」  俺が風音を呼んで叫ぶ声に、返事も出来ず、ただ白い骨を晒している、と言うのに……!  怒鳴る俺に、一通り経を読んで満足したらしい。  ヒトオニを弔うという弔い鬼は、落ちついて言った。 「確かにな。  怒りに狂った妖共に、魂のほとんどを食いちぎられ、返事も出来ない姿だから俺は『死骸』と言ったんだ。  しかし、どんな形であれ、妖ならば。  身体の一部が残れば、しばらく眠りのうちに、また戻るだろう」 「……風音は、妖じゃねぇよ、人間だ!」  怒鳴りっぱなしの俺に、弔い鬼は『ふうん、それにしては強いな』と首を傾げ、改めて風音を見ると、納得したように頷いた。 「他人の心の一部が、風音を支え良く守ってる。  それが、風音を真の妖並みに強くしている原因だな。  ……これは、お前の肝っ玉、か? 『死んだら返す』契約になっているみたいだが、風音に酷く執着して、半分ほどが、まだ骨に残っている。  ここで、貸していたものを全て返せと言わぬ限り、おいそれと、この魂は、ばらばらになることも、消滅してしまうことも無いだろう」  ……俺の肝っ玉が……魂の一部が、風音を守ってる?  肝っ玉は、丸まま一つ、と言う訳じゃねぇ。  砂かけの婆がサラサラの砂にして、風音にふりかけたんだ。  そのうち、半分ほど戻って来た、と言われれば。  こんな恐ろしげな鬼を目の前にして、なんとかぎゃぁ! と叫び声を上げずに済んではいるが……  俺でも……風音のために……何かができたんだろうか?  思わず、風音の骨の前で、へたへたと座り込んでしまった俺に、弔い鬼は、言う。 「そもそも、コイツは、妖を恐れ、一人で異界に行くことに怯えていた。  お前が、本当に寿命が尽きて、異界に来る日まで。  なにも見ずに、感じずに、この姿で眠ることは、ある意味、救いであるかもしれないな」  だから、そう、心配することも、泣くこともない、と弔い鬼に言われて、驚いた。 「泣く? この俺は、大の大人の、やくざだぞ!  そんな俺が泣いているなんて訳あるか!」  言った側から、一粒の水滴が、ぽたりと、自分の手の甲に落ちて、ピクリとする。  う……ううんと。  これは涙なんかではないぞ!
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