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断じて違う!
そう、思いながら顔をぶるっと振った時だった。
ぽた、ぽた、ぽた……と水滴が、手に当たる。
ち……ちょっと待て!
いくらなんでも、これが涙なら、泣き過ぎだ!
まさか、そんなと、頬につたう水分を手の甲でぐい、と拭けば。
水の粒が、肩に、背に、頭に当たる……雨。
世界は、白々と夜が明け始め、星と太陽が、同時に顔を出しかけている。
今日は、良い天気になりそうのに、ひたひた、ぽつん、と降り込んだ雨に、弔い鬼がため息を吐いていた。
「ああ、これは、天気雨。狐の嫁入りか。
異界から、風音を迎えに眷族(けんぞく)が来るぞ」
その声に、空き屋に開いた穴を見れば、黒々とした空間に、ぽつぽつと、朱色の灯りがともる。
そして、子狐が二匹。
ひゅるり、ぽん、と穴から飛び出したかと思うと、弔い鬼に頭を下げた。
「弔い鬼殿」
「とむらいおにどの」
「風音は、元々九尾狐様の甥(おい)にて、狐の眷族。
鬼として葬る訳には参りません。
狐として、しばし眠るが良いでしょう。
我らに返していただけると、有りがたい」
「かえせ、かえせ」
いつの間にか、二匹の子狐は、ヒトの子どもの姿になって、さやさやと騒ぐ。
そんな二匹の姿を見て、弔い鬼は、うなづいた。
「良いだろ、持って行け」
「やれ、嬉し」
「よかったね」
二匹の子狐は、そう言うと、年長の狐が風音の骨をそっと抱きしめた。
「……風音」
思わず呟いた、俺の声を狐たちは、聞いたのか……どうか。
ふぃ、ふぃ、と次々に頭を下げると、大事そうに風音の頭を抱えて異界へ帰って行ゆく。
そして、狐たちが異界へ姿を消すその時が『百鬼夜行』が終わる時間だったようだった。
空家に開いた、黒々とした空間が、だんだんと縮まってゆき……異界への扉を開いたコカトリスもまた、バタバタと、縮まった穴に吸い込まれ。
後に残ったのは俺と……弔い鬼だけになってしまっていた。
「お前は、異界に帰らねぇのか?」
聞いた俺に、弔い鬼は、笑う。
「なに、俺には、まだ後始末があるからな……
まずは、お前を帰さねばならんだろう?
お前もまた、一応。
狐の眷族の端くれだとは言え、一度は鬼に落ちた身だからな。
鬼のよしみで、このただ一回だけは、無事に帰してやるさ。
しかし、あまりに外道をつくしてまた百鬼夜行に巻き込まれる憂き目にあってみろ!
今度は、ヒトオニとして葬ってやるからな!」
弔い鬼は、そう、言いたいことだけぽんぽんとまくしたてて俺の首根っこ辺りを引っ掴んたかと思うと。
病院のある方向に向かって、力任せに、びゅう、と俺を放り投げやがったんだ。
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