三章

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「龍堂の兄貴は、雪村……風音先生との診察中に、俺達の敵対組織に襲われました……が。  雪村先生は、龍堂の兄貴を庇って、一緒に刺されてしまったんです。  ……ここが病院だったにも関わらず、命を救うには間に会わない……即死だったそうです。  もし、雪村先生が庇わなかったら、龍堂の兄貴も、絶対助からなかったそうです」 「……莫迦が」 「は? なんですって?」  思わず呟いた俺の言葉に、舎弟どもが反応したが、俺は手を振って追い払った。  何をやっているんだ、風音は!  死ぬのが怖くて、俺を呼んだハズなのに、自分が真っ先に死んで、どうする。  風音は、一体何をしたかったんだ!  出ない声の代わり、腹の中で、俺は力一杯「大莫迦者!」と叫んではみたのだが。  風音か、何を考えていたのか……少しは、判る気もした。  ……迷っていたんだ。  俺を殺して、異界に連れて行くか……否かを。  迷った挙句……自分一人で死んだ。 「くそ……一緒に逝っても良いって言ったのに、よ」  もしかしたら、最後に見た狐の子どもたちのように、俺も風音も、二人。  仲良く、暮らしていた過去があったかもしれない。  これから、未来。  例え寿命で分かたれようとも、二人で酒の一杯でも呑む日が来たかもしれなかった……のに。  まるで全ては、ただの夢。  川ほとりの神社は、とうに潰され駅になり、社の付近は駅裏で、不気味な噂の空き屋になった。  そこが、化け物たちの闊歩する、百鬼夜行の終点だなんて、現実の世界では、誰も預かり知らぬ事だった。 「若頭! 襲って来た奴らには、絶対報復しましょう!」  騒ぐ、舎弟の声にまぎれて、弔い鬼の声も響く。 『あまりに外道を働くと、お前をヒトオニとして葬ってやるぞ!』  ヒトオニとして葬られるその罪が、どれだけ重いのか、知らねぇ。  こんなことが起こるまでは、どんな罪も怖くは無かったが。  死んで、狐の風音が待つ異界に降りて行け無ぇのは……勘弁、か。  異界の底で、一人。  目覚めた風音を泣かす訳にも、いかんだろう。 「……報復か……また、そのうちに、な」  多分、相手側の人間の命をとるまでのことは、しねえ。  完膚なきまでにたたきつぶす、ので無く、互いのメンツの立つ解決の道を……探すか。  ……仕方ねぇなぁ。  もう一度、風音に会うために頭、使うか。  今までは、やられたら、即。  真っすぐ迅速に百倍返しが常だった俺が、一旦引く発言に、詰めかけた舎弟どもは、顔を見合せたようだが、知らん。  戸惑いを隠せない舎弟達を眺めながら、もう、疲れたから黙れ、と言い放ち、目をつぶれば。  ヒィーヨゥーと鳴く鵺の声と、百鬼夜行の妖共のざわめきが、まだ聞こえたような気がした。  どこか、遠くで。  〈了〉  H27.9.15.am11:30 閲覧数:2854 / しおり:60 評価:40 / マイリスト:4 スキ:2253(過去サイトデータ) イラストをお貸ししていただいた作家様。 そして、ここまで読んでいただいた読者の皆様に、感謝を込めて。 ページビュー 256 2,089 読者 44 379 スター 19 221 本棚 1 50 感想・レビュー 0 0 ページコメント 5 35 ページスタンプ 6 83 BL:563位(最高325位) 2020.7.10.22:24(エブリスタ・データ)
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