一章

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「あなたは、退院後、一週間の定期検診で、今日も、一人でここに来院しました」  おお! そうだった、そうだった!  入院が秘密だったんだ。  その後の定期検診だって、秘密に決まっている。  最近、熱を上げているコトになっている、エリカだかエリナだったかって女に、会いに行く名目で、やけに一緒に行くと言って聞かねぇ舎弟共を全員振り切って、ココに来たんだっけ。  ソレで……  それで?  すぐに途切れる記憶にこきこきと首を傾げていると、雪村先生は、やれやれ、とため息を吐いた。 「丁度、僕の担当の看護師が別件で呼ばれ、診察室で、あなたと二人きりの時でした。  突然、四、五人ほどの暴漢が診察室に乱入して来て……」 「あっ……俺、刺されたんだっけ!?」  はい、とうなづく雪村先生の言葉に、俺は、思わず自分の両手を眺めた。  思い……出した。  そう、思いだした!  最近、表も裏も仕事が順調過ぎてた。  ソレが、俺達龍堂組を良く思っていない敵対勢力の神経を逆なでしてるから、外出するときは、なるべく大人数で行動しろ、と組長(オヤジ)から、言われてたんだ。  そこへ、俺が手術や何かで一人になることがあると、どこかで情報が漏れたらしい。  病院で診察を受ける、なんて最低に無防備な状態のタイミングで敵対勢力の暗殺者(てっぽう玉)が、俺を狙った。  そして。  俺のわき腹と胸に、深々とナイフが突き刺さったのを見た……所で、本当に完全ブラックアウト、だ。 「……で。俺は……死んだのか?」  昼間、かなり酷く刺されたはずなのに、今はどこも痛く無ぇ。  それどころか、傷もなく。  よくよく眺めれば、自分の両手が、うっすら透けているような気がしてぞっとする。  なんてこったい!  まさか、俺自身が、俺の一番苦手な幽霊になる日が来ようとは!  我ながら気持ち悪い~~ なんて。  お莫迦な自家中毒やってる俺は、雪村先生に、しっかりしてくださいよっ、と怒鳴られた。 「あなたは、まだ生きてます!  刺された場所が病院だった事が幸いだったんです。  ハート・モニターと人工呼吸器がついている危険な状態ですが、死んではいません!  あなたのその状態は、幽霊ではなく、生きている魂の存在、生霊ですよ!」 「ほ……本当か!?」
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