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さっき、最初に俺を脅かした笑い女も、目が一杯ついていた少女も、すいすいと壁を抜けて大きな流れに呑み込まれてゆくところを見ると、現実の壁も、何も、全く関係ないらしい。
だだ、ただ、こっちに向かって、迫って来る。
「こ……これで、どうやって、百鬼夜行に巻き込まれないで済むんだよっ!」
「まずは、身を低くして! 物陰に隠れて!」
そんな風に、雪村先生は言ってくれたけれど、それどころじゃねぇ!
妖は、壁をすり抜けてくるんだぞ!
そんな奴から逃げようと、物陰に隠れても、無駄だろうが!
窓一杯に迫って来る妖怪たちの大迫力に、耐えきれなくなった俺は、妖怪が迫るナースステーションを飛び出した。
「り、龍堂さんっ!
今、ココから出てはダメです!」
そんな切羽詰まった雪村先生の声に顔を上げると、廊下一杯に、細い何かが沢山張り巡らされているのをふんづけた。
「え……と、コレは……蜘蛛の……糸?」
言ってみて、違う事に気づく。
いいや、コレは、髪の毛だ!
どばっと、視界を全部覆うような、ものすごい量の髪の毛が、それこそ、まるで蜘蛛の糸のように俺に絡みつき、その中心に居る赤い着物を着た女の子が、くくく、と笑う。
「今宵の主役が逃げるなんて、野暮なこと、しませんよね?
せっかくですから、良い百鬼夜行にしましょうねぇ」
し……主役!?
この俺が!?
驚いているうちに、髪の毛は、ぎゅうぎゅうと俺を締め付け……とうとう俺は、柔道で絞め技を喰らった時ように、気を失った。
意識を失う寸前。
「力也!」
なんて、俺の名前を呼ぶ雪村先生の声を聞いたような気がしたが……気のせいかもしれなかった。
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