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朝の散歩
その日は抜けるような青空が広がる絶好の散歩日和だった。
早く行こうと急かすハッピーに引っ張られながら、門を出て少し歩いた所にある坂道を下っていくと、坂の下から白い犬を連れた女の子が上って来るのが
目に入った。
距離はどんどん縮まり、ハッピーが落ち着きがなくなりその犬に寄って
行くといつも散歩の途中で会うトイプードルだった。
いつもその犬を連れている気さくなおばさんと話した事もあり名前がキャロという事も知っていたし、何よりハッピーはキャロが大好きだった。
ハッピーをキャロから引き離して、「すみません」と女の子に言うと
「いいえ」と言ってそそくさと立ち去ってしまった。
ほのかに花の香りがしたような気がして、僕はその場に立ちすくみ、
心臓のバクバクが止まらなくて本気で病気かと思った。
なんと僕は一瞬で、長い黒髪の彼女に心を奪われてしまったのだ!
翌朝、あのこに絶対会えますようにと祈りながら門を出ると今にも雨が
降り出しそうな空模様だった。しかし、僕もハッピーにも散歩を止めると
いう選択肢は無かった。ブルーの傘を勢いよくつかみ玄関を飛び出し、
坂道にさしかかった所で大粒の雨が降り出してきた。
すると、なんとあのこがキャロを抱え走って来るではないか!
僕は意を決して
「あの…良かったら傘に入りませんか?キャロちゃんも濡れちゃうし
とにかく、入って!風邪ひくから」
「ありがとうございます。
でも、どうしてこの子の名前知ってるんですか?」
「ああ、いつも散歩している時おばさんに会って話した事あるから。
ところで、おばさんは?」
「具合が悪くて、私はバイトで2,3日お散歩を頼まれているんです」
そうこう話している内に恨めしい位に雨雲は晴れて来て、
あっという間に雨はやんでしまった。
「ありがとうございました。もう、大丈夫です」
彼女はそう言うと、急いでキャロを下に降ろし走り去ってしまった。
ハッピーが追いかけようとしたけど、しつこいと思われても
嫌なので不満そうなハッピーを抱えて家へ戻った。
やっぱり僕みたいなイケてない男子が声かけたから警戒されたんだと
思ったら情けなくなった。
今まで容姿の事なんか気にした事ないのに…
その日は一日中、彼女の事が頭から離れなかった。
翌日も会える事を願って散歩に出かけたが、さらにパワーアップした
おばさんが復活していて、おばさんには悪いが僕は落胆の色を隠せなかった。
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