エリーゼのために

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エリーゼのために

その日は朝からそわそわしていた。 なぜなら、今日は彼女にピアノを教える日だから。 僕のただならぬ雰囲気に、敏感な姉貴はすぐ気が付き、 「今日何か特別な日でしょう?」 と言って、また髪のセットやら服に口を出して来た。 説明するのも面倒くさいので、急いでダンススタジオに向かった。 ダンススタジオは、駅からほど近いおしゃれなビルの5階だった。 エレベーターに乗ると、彼女が息せき切って飛び込んで来た。 「今日から宜しくお願いしま~す」 ほのかに香る花の香りは、朝の散歩で出会った時と同じだ。 僕は、心臓の鼓動が早まるのを彼女に気づかれないかとひやひやした。 5階まで上がる時間が妙に長く感じられ、ずっとこの空間に居たいと思ったが 無情にもドアが開き、ダンススタジオに着いてしまった。 ピアノは電子ピアノだったが、触ってみると意外にいい音がした。 「エリーゼのために、聴かせてください!」 僕は心の中で、『舞ちゃんのために想いを込めて弾くよ!』とつぶやいてから弾いた。 弾き終わって彼女を見ると、涙を流していた。 「すごく感動しちゃって……」 僕は思わず彼女に近づき、気が付くと彼女のおでこにキスをしていた。 彼女は突然の出来事に驚き、僕をはねのけ走り去ってしまった。 ああ、僕は何という事をしてしまったんだろう。
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