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俺が送っていく
先程手を強く握ってきた結城の手を思い出す。
あいつもあいつで意味がわからない。
一夜を共に過ごした後から、結城とは何もない。
本当に、何もない。
事務所では相変わらず、仮面をかぶったいい子だし、たまに二人きりになったときも、口は悪くなるが、麻里子に対してなにもアクションを起こしてこない。
ナメられた先輩と、生意気な後輩でしかない。
それなのに、さっきのあれは何だ。
もしかして、彼の言う“淫乱”な女を見るとムカつくタイプなのだろうか。
それなら、腕を組みがてら胸を押し付けてくる女の方が、淫乱な気がするのだが。
「麻里子!」
ここ数時間で何度も呼ばれたせいで、もう違和感は感じなかった。
「お前、カーディガン忘れてたぞ。ほら」
松田が差し出した、紺色のそれを、立ちはだかった男が受け取った。
「悪いな、松田」
「え……」
「この酔っぱらいは、俺が送っていくから」
宮内のコートからは、あの甘い香りがした。
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