俺が送っていく

1/1
1164人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ

俺が送っていく

先程手を強く握ってきた結城の手を思い出す。 あいつもあいつで意味がわからない。 一夜を共に過ごした後から、結城とは何もない。 本当に、何もない。 事務所では相変わらず、仮面をかぶったいい子だし、たまに二人きりになったときも、口は悪くなるが、麻里子に対してなにもアクションを起こしてこない。 ナメられた先輩と、生意気な後輩でしかない。 それなのに、さっきのあれは何だ。 もしかして、彼の言う“淫乱”な女を見るとムカつくタイプなのだろうか。 それなら、腕を組みがてら胸を押し付けてくる女の方が、淫乱な気がするのだが。 「麻里子!」 ここ数時間で何度も呼ばれたせいで、もう違和感は感じなかった。 「お前、カーディガン忘れてたぞ。ほら」 松田が差し出した、紺色のそれを、立ちはだかった男が受け取った。 「悪いな、松田」 「え……」 「この酔っぱらいは、俺が送っていくから」 宮内のコートからは、あの甘い香りがした。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!