ヒーローになれない！

はい、こちら国立ヒーローセンターです

はい、ヒーロー支援・国立ヒーローセンターです。今日はいかがいたしましたか？

はい、中学生のご子息のために、ヒーロープランSをご希望ですね。畏まりました。確認のため、プランの説明をさせていただきます。

ヒーロープランSにおきましては、「人命を助ける正義のヒーロー」を理念にヒーローの活躍場所をセッティングいたします。

お客様のご希望でございますと……はい、希望に合致したものがございます。
誘拐された子供を助けるヒーロー、というシチュエーションなどはいかがでしょうか。高額な身の代金を要求され、しかしそんな大金は用意できない。嘆く家族のもとに現れる、正義のヒーロー。監禁場所に向かい、子供を救い出す、というのが大まかなストーリーです。

……このプランで決定ですね。畏まりました。続いて、費用についてお話しさせていただきます。

まず人件費に関してです。
犯人役の方に百万円、被害者役の方にも同様に『百二十万円』となります。

犯人役の方はヒーローに拘束されたあとは留置所に入ることになり、その間は社会活動が制限されてしまうため。彼らの幾日分の生活費ですね。

被害者役の方は、今回のプランに最適な配役として『小学六年生の男の子』が候補として上がっておりますので、幼さゆえ心的外傷を受ける可能性が高いため。
犯人役より値段が高いのは、この男の子、並びにご家族は『被害者役』の経験がございますので、今回のプランも成功に収める可能性が高いからです。

これら二点が人件費の理由となります。
ヒーローは人を救う職種です。ヒーローだけで、『ヒーロー』は成り立たないのです。そのための必要経費となります。

次に舞台装置にかかる費用です。
ヒーロー衣装、必殺技、監禁場所の用意など。衣装や必殺技は国立ヒーローセンターの技術を使っていまして、他にない独自のものとなっております。それ故、少々お高めにはなりますが、百八十万円となります。

また、ヒーロープランS基本料金百万円を加え……計五百万円となります。
ご質問などはございますでしょうか。

『犯人役は罪を犯したことになるのか？』ですか。
もちろん、誘拐は犯罪ですので一旦は警察に身元は引き取られます。しかし、犯人役の行為は国立ヒーローセンターの要請に基づいたものなので、比較的短期間の身柄拘束となります。

「役者は使わない。あくまで一般市民を助けるヒーローのために」。より自然なヒーロー活動を行なってもらうための我が国立ヒーローセンターの理念でございます。

ご確認のほどよろしくお願いします。

……はい、畏まりました。それでは契約成立ですね。後ほど係の者がご自宅に伺いますので、契約書へのサインをお願いします。
身分証もそのときに――……。