最強の暗殺者

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男は据わった眼でガラス越しの審査員らに睨みをきかせながら淡々と言った。 「さぁ、終わったぞ。これでオレが世界最強という事で間違い無いだろう。」この瞬間には世界一の暗殺者が決定していた。男はたった今、世界でも有数の九人の暗殺者をものの数分で瞬殺し、見事にこの大会に勝ち残ったのだった。 「素晴らしい。世界最強の暗殺者を決めるこの大会の優勝候補一角としての実力を存分に発揮してくれたね。」審査委員長はガラス越しにマイクで彼を讃えた。 「なら早くここから出せ。そして賞金の百億を渡してもらおうか。」 「まぁ、待ちたまえ。まだ制限時間は一時間以上も残っている。終了時刻まではルールの規定上この特設密閉リングで待機してもらおう。」 「何を勿体ぶっている。まさか賞金が無いとか、出し渋っているのではないだろうな?もしそうならば、今から貴様ら全員を十秒以内に“56してしまっても”いいんだぞ?」 「まぁ、待ちたまえ。規定は規定だ。それにほら、ちゃんと賞金はある。」そう言うと一人の審査員が山積みにしてあるアタッシュケースを開けてガラス越しに男に見せた。それを確認すると男は武器をしまい、その場に腰を下ろした。 この大会で世界中から集められた十人の暗殺者の中で男が最強である事が証明されたのだ。それも断トツでだ。二時間の制限時間があるところを、ものの数分で決着を付ける圧勝劇は『さすが下馬評二位の実力だ。』と審査員たちをうならせた。 そして現在あれから五十分ほど経過した。この時、男は激しい“めまい”と動悸に襲われていた。 「お、おい…、貴様らオレに一体何をした…⁈こ、これは…、尋常じゃ…、な…い…」男は脂汗を垂らしながら苦痛に満ちた表情で審査員達そう問いかけるとうつ伏せに倒れて動かなくなってしまった。審査員達はそんな男の様子をニヤニヤしながら眺めていた。 「やはり“下馬評一位”は素晴らしいな…。」 「見事に引き分けに持ち込んで見せましたからね…。」 「一番最初に“下馬評二位”にやられてしまったが、しっかりと“自分の仕事”はこなしていたようですなぁ…。」 「五十分で効き始め、六十分で“ヤル”という話は本当だったと言う事だ…。」 「下馬評一位が使う“細菌兵器”は一国を壊滅させる毒性と効果があるらしいからな…。」 「これで大会は無効、賞金は我々で山分けできる訳だ…」 「ああ…。誰も生き残った者が居ないのだから、それは仕方の無い事だ…」 この時、審査員の全員は激しい“めまい”と動悸に襲われ、身体中からは多量の脂汗が噴き出していた。
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