季節は過ぎて

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季節は過ぎて

季節は過ぎて冬は去る。 お正月気分もすっかり抜けて、バレンタインには甘い友チョコを沢山食べた。 先日 学校では卒業式が(オコナ)われ、ひとつ年上で近所に住む 大好きなお姉さんが御卒業。 その卒業式を(イロド)っていた梅の花が、可愛いらしい姿を消して青い芽をつけた頃。 代わりに道端(ミチバタ)にある菜の花が(チョウ)よ虫よ、と もてなしていた。 駅のホームには、旅立つ大好きなお姉さん。 柏 優雁(カシワ ユウカ) (ネェ)の姿。 優雁姉には、明るい春が待っている。 これから女子大生としての、遠く離れた都会での新生活が始まるんだ。 その内 桜も咲いて、この何もない田舎(イナカ)町でも(ニギ)やかになるだろう。 大好きな優雁姉が居なくなったとしても、きっと大丈夫だ。 立花 茜(タチバナ アカネ) は涙をいっぱいに()めて、(アフ)れ出てしまいそうになるのを(コラ)えながら、なけなしのお小遣(コヅカ)いで買った小柄(コガラ)な花束を優雁姉に手渡した。 「ありがとう、茜ちゃん」 ころころと鈴の音に似た声、ゆったりとした調子のしゃべり方。 笑うと()れる目尻(メジリ)は、昔からずっと優しい優雁姉そのものだった。 春は比較的(ヒカクテキ)好きだけど、今は嫌いになりそうだ。 私は涙声(ナミダゴエ)にならないように気を付けながら、返事をする。 「うん。優雁姉、身体(カラダ)に気を付けて元気でね」 小さい頃からお世話(セワ)になった。 ケンカもしたし、たくさん我が儘(ワガママ)も言った。 今生(コンジョウ)の別れでもないのに、今までのことが美化されて走馬灯(ソウマトウ)のように、頭を(メグ)る。 堪え切れず、ぽろりと流れた涙。 優雁姉がこれを(スク)って、穏やかに笑った。 「ふふふ。茜ちゃんもだよ?」
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