小さすぎて

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小さすぎて

「小さすぎて見えなかったわ」 「はぁああ!?そんな訳無いでしょ!!!」 優雁姉の腕から離れ、キーキーと響く金切(カナキ)り声。 五月蝿(ウルサ)いとでも言いた気に、裕太は自分の両耳を(フサ)いだ。 顔を合わせれば、いつでもケンカ。恒例行事(コウレイギョウジ)。 ゲーム的に言えば、出会い頭の強制発生イベント。 周りはみんな「仲良くしなさい」と言うけれど、無理な話だ。 仲良くなんて、生涯(ショウガイ)出来る気がしない。 まぁまぁ、と間を取り持つのは 優雁姉のいつもの役目(ヤクメ)。 おかげで十二分に頭が冷えた。 悲しい気持ちも、何処(イズコ)へ逃げてしまったようだ。 「で?それ何なの??」 「お前と違って綺麗(キレイ)だろう?桃の花だ」 腕を組んで私が言えば、裕太が答える。 枝には点々と咲いたピンク色の花。確かに可愛くて綺麗だ。 しかし(ツボミ)の方がまだ多く、裕太の言葉にはトゲがある。悪かったね、不細工(ブサイク)で。 それにしても何だか、見覚えがあるような気がする。 桃の花…桃…出てきそうになった所で、優雁姉が困り顔で手を上げた。 「裕太くん。もしかしてだけど、ソレ石坂(イシザカ)さん()の桃の木じゃないわよね?」 それだ!と合点(ガテン)がいった。 私の家のお向かいにある立派な日本家屋の石坂()。 庭には桃の木があることを思い出した。 「よく分かったな。さすが優雁姉」 と、裕太は(ホコ)らし気。 石坂()(ジイ)さんは大層(タイソウ)桃の木を大事にしているそう。 偏屈(ヘンクツ)で怒りっぽく、怖いことは地元の子供であれば、知らぬ者はいない。。 よって、頼んで素直にくれるような人とは、思えなかった。 (こいつ、絶対()って来たな。) 同じことを思ったんだろう優雁姉も、(アキ)れた顔を(カク)すことはしなかった。
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