で、まさか

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で、まさか

「で、まさかソレを"優雁姉にあげる"なんて言わないでしょうね?」 これから長い時間、電車と新幹線(シンカンセン)で移動するって言うのに、袋のない(ハダカ)の枝なんてもらったら邪魔(ジャマ)でしかない。 優しい優雁姉なら受け取ってくれるだろうけど、迷惑(メイワク)すぎだ。 しかし裕太からは、意外な答えが返って来た。 「そうじゃない」と顔を左右に振り、桃の枝を私へ押し付けて、もうひとつ腕に掛けていたビニール袋を優雁姉に差し出した。 「優雁姉はこっち」 受け取った優雁姉が袋を(ノゾ)く。 私も押し付けられた桃の枝を抱えたまま、袋の中身を見た。 中には緑色の葉っぱ。小さな(ハチ)植えらしく、土ぽい茶も垣間(カイマ)見える。 花…の面影(オモカゲ)はない。これから旅立つ女性に対し、ただの葉っぱって 頭可笑(オカ)しいんじゃないだろうか?? 裕太のセンスの悪さに、目を(ウタガ)う。 「えっと、…裕太くん これは何ていう植物なの」 「山法師(ヤマホウシ)。夏になったら花が咲くよ」 山法師、初めて聞いた草だ。へぇ、夏になると花が咲くんだー ……て、いやいやいや、そうじゃないでしょ! せめて今が旬な花にしておけよ! なんで、草を渡すんだよ!! しかも鉢植えなんて、枝以上に重くて邪魔だ。この桃の枝の方がまだマシだろう。 と言いますか、 「じゃあ、この桃の枝は何のために取って来たの!」 般若(ハンニャ)顔を裕太に向けて、私は矢継(ヤツ)ぎ早に聞いた。
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