お嬢と竜と新しい関係②

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お嬢と竜と新しい関係②

「お前のまっすぐなところ。それは、長所だぞ?でもな、家族には甘えたっていいんだからよ?本音、言ってもいいんだぜ?」 本当に、敵わない。 三代目組長、だてに長年頭を張ってきたわけじゃない。 私なんて、まだまだガキで足元にも及ばないや。 「ドラゴン族のみんなに会いたい……会いに行って……いい?」 素直に言葉にすると、不思議と笑顔になった。 「おうよ!ワシの代わりに礼を言っといてくれ」 そう言って破顔する祖父を見ながら立ち上がり、私はパリピ衣装……いや、親衛隊の愛情たっぷりの衣装を取りに行く。 ドラゴニクルスに行くなら、あれじゃないとね! 早足で自室に向かい、きちんとクリーニング済みである衣装を持って大広間へと向かう。 すると、大広間に着くという一歩手前で、突然視界が真っ白になった。 「えっ!え!?えーー!何!?ちょっと、眩しいーー!」 踞って凌いでいると、次第に光は消えていった。 恐る恐る瞼を開ける。 そこはさっきまでいた廊下だった。 荒野ではない? ということは、つまり……。 私は、ひょいと開けっぱなしの障子から中を覗く。 「アサコ!!」 「アサコ様!」 レギオンとアラン。 見慣れた二人が、祖父の前で正座するという見慣れない光景がそこにあった。 「レギオン!?アラン!?……あ、あの……」 「ま、座れ」 手招きをする祖父の隣に、私も座る。 二人は私に微笑んでから、祖父に真剣な目を向けた。 「お初にお目にかかる。三代目殿。オレはドラゴン族の王、レギオン」 「同じくドラゴン族、戦士長アラン」 「おう。皇京次だ。いろいろ世話になったな!で、揃って何か用かい?」 三つ巴の状態が何故か空気をひんやりとさせている。 そんな中、レギオンが口火を切った。 「我らドラゴン族……ドラゴニクルスに住む種族をここで受け入れて貰えないか?」 「レギオン!?それって……」 びっくりして叫んだ私を、軽く目を伏せていなし、また続けて言った。 「滅びる寸前だったドラゴン族はアサコによって救われた。我らは皆アサコが好きで、一緒に居たいと思っている。出来れば、ドラゴニクルスにずっといて欲しいと考えているのだが……」 「レギオン、実は私ね……」 そっちへ行こうと思っていたの。 と、続けようとしたのに、それをレギオンは手で制した。 「アサコの住む所はここで、大事なものもここにある。例えドラゴニクルスに来る決意をしてくれても、三代目殿や組のことが気になって仕方ないと思うのだ。ならば、我らがここに来れば全て解決するのではないか、と」 「向こうで決をとったんだ。全員一致で賛成だったよ。すぐに来られなかったのは、砦の片付けとかに手間取ってしまってな。すまない」 アランがレギオンの言葉を補足した。 「でもっ、それって……レギオン達は故郷を捨てるってことでしょ?いくら行き来出来るって言っても……」 馴染んだ場所を捨てるなんて決断、簡単にしていいはずはない。 不安げな私に微笑みを投げ掛けつつ、レギオンとアランは一呼吸置く。 そして、声を合わせて一字一句丁寧に言った。 「……病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、番として愛し、敬い、慈しみ、いついかなる時も離れぬことを誓う」 漆黒の瞳と、焦げ茶の瞳が真摯に私を捉えた。 身体が熱くなって、あっという間に顔が火照る。 これは、このフレーズはいわゆるあのとても有名な……。 頭は支離滅裂で、到底冷静ではいられない。 そんな私の隣で祖父が直球を投げた。 「お前さん達、もしかすると、亜沙子に婿入りするつもりなのかい?」 「む、むこっ?」 婿入り……え、嫁入りでなくて? いや、そんなことはどうでもいい! 「ああ。アサコ様がうんと言ってくれれば……」 「先程の言葉どおり、この皇組を終の棲家としたい。一生アサコを守って側にいたいのだ」 アランとレギオンはスッと姿勢を正した。 「ははっ!こりゃいいねぇ!腕っぷしの強ぇ男、いや竜が二人揃って、亜沙子がいいってか?こりゃあ女冥利に尽きるねぇ」 親衛隊と同じこと言ってる……。 祖父はニヤリとしながら私を見た。 でも。 ど、ど、ど、どうしよう。 婿だなんて、全く考えてなかったし、そもそも色恋なんて何がなんだか……。 そわそわと落ち着かない私を見て、レギオンとアランはくくっと笑った。 「知っている。アサコの心など全てお見通しだ」 ……でしょうね? と、私は一気に冷静になった。 こうして、アワアワとしてることもきっとわかってて、心の奥にある本心ですら見透かされている。 なら、もう、いいや。 「わかりました!皇組四代目……まだ仮だけど、ドラゴン族の王レギオンと戦士長アランの申し出、受けさせて貰います!……でも、婿っていうのはいきなりなんで、ええと……」 「仕方ねぇなあー。まずは亜沙子の用心棒から始めるかい?」 「お、おじいちゃん?」 何で用心棒なの? 不思議な顔をする私に祖父は言った。 「力があれば、すぐにのしあがれる世界だ。のしあがって地位を固めたら、その時、どうするかを決めればいい。お誂え向きに、婿なんて一人だろうが二人だろうが関係ない世界だしな」 「そう言えば、おじいちゃんにも何人もいたよね?」 「……忘れたなぁ……そんな昔のことは……」 そっぽを向いて笑う祖父を、私は暖かく見つめた。 これは祖父なりに、彼らを見極めようとしての提案なんだ。 私を心配して……もう、本当に……優しいんだから。 「三代目殿、その申し出謹んでお受けする!必ずアサコに相応しい地位を手に入れてみせる」 「オレもだ!誰にも負けねぇよ」 雄々しく笑うレギオン。 猛々しく叫ぶアラン。 二人は頷く祖父を見て、姿勢を正し、次に真っ直ぐ私を見た。 「うん。じゃあ、これからもよろしくっ……ん?」 意気揚々と叫ぶ私の背中で、何かが光った。 この部屋で光るものと言えば、それはもうアレしかないよね? 光は暫らくの間輝きを放ち、その目映さが収まって行く頃……。 そこには、素敵な沢山の笑顔があった。 ~終幕~
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