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私が数寄者だって証明をしてみた。
「ふふっ」
「どうかした?」
「ううん。なんでも」
隣りの腕に手を添えると、またニヤけてしまう。
「楽しそうですね。そろそろ開けますけど、よろしいですね」
そう言いながらニッコリ笑って私に合図してくれる松山さんに、私も笑顔で合図する。
さっきから厳かな空気と音楽が部屋の向こうから伝わってくる。
隣りをチラ見するとガッチガチに緊張してる父親の誠司の顔があって、あまりそんな父親を今まで見た事が無かったからけっこう面白い。ふふっ。
扉が開いた瞬間。それは私が生まれた瞬間なんだって。担当の松山さんに教えて貰った。
赤いバージンロードにも意味があって、父親と並んで歩いてる間は、生まれた時から今までの人生の道で──ホントはそんな事を思い浮かべて両親に感謝してウルっとしなきゃいけないんだろうけど、友人や佳奈っちやお腹の大きな友ティのニヤニヤしてるのとか、母親がもう既に涙で化粧が崩壊してるのとかが気になっちゃって、変な笑いしか出てこないや。ふふっ。
✻ ✻ ✻
高校二年の私は、紫月の下校を待ち伏せて問い詰めた。なんで普通にしてるんだって!なんで自分のやりたい事をやろうとしないんだって!そしたら紫月は急に泣き出しちゃった!やべぇ男子高生泣かしちゃった。けど引き下がれなくなって、彼引きずって、それから説教。
紫月からしてみたら元同級生が急に現れ説教しだすんだからたまったもんじゃないわよね。ふふっ。
で、彼はすぐ様飛び級でアメリカの大学へ。
驚く程でないのに、親御さんも先生も、全く彼の才能に気づいてなくて、飛び級無理だって言われたけど、ラマヌジャンのタウ関数の証明をしてみせて、やべぇ奴だったって事がわかる。遅すぎだろ!
渡米の際、紫月は私についてきて欲しいって言ったんだ。自分の口から!
私もうん!って返事しそうになったけど、高校は出たかったし、英語ぐらい話せないとって、必死に勉強して会いに行くって約束して、卒業後アメリカで彼と生活を共にして、なぜだか知らんがトントン拍子に話が進んで、今、挙式してる!
ふふっ。人生って不思議。
次の不安要素が近づいてくる。
両手をモジモジさせて上向いたり下向いたり、落ち着かなさそうな紫月君。
新郎の元まで何とかぎこちない歩き方で辿り着いたお父様。お役目ご苦労さま。ふふっ。
手を解いて私だけ一歩前へ。
親から離れた瞬間は二人が出会った瞬間──っていつだ?もう、とうの昔の事だから忘れたわ!
ちゃんと向き合えたのはあの紫陽花の時だ。
紫月と目があって、にぃっと笑ってやったら頬がヒクつきながら笑ってやんの。ふふっ。テンパってるわこの人も。なんでか周りが緊張してるからおかしくて仕方ない。主役の私が一番冷静なのってなんなんだろ。でも面白いし、なんだか楽しくなっちゃってとってもハッピーだわ!
手元にはふわりと香る白いキャスケードブーケ。
赤くなってる紫月はそれに目を落とす。
百合のカサブランカと僅かに緑が差す白バラ、アバランチェ。
じーっと見てる。
お?なんか言うのか?って少し待ったけど、言葉が見つからないらしい。だから、
「きれいでしょ?カサブランカ」
「あ、う、うん。百合。は、すき」
「こっちは白バラ。アバランチェ」
「う、うん……」
なんかないのかーーい!と、ツッコミ入れたくなる。
「ゆ、ゆ、ゆ」
(お?何なに?)
「百合は、花びらが3枚がくが3枚、足すと6。6は完全数で好き……」
あー……そうね。
花言葉とか、かっこいい事言うのか?って思ってしまった私が間違っていましたわ。
うん。
それが紫月らしいわブレてない。
これこそ私が好きな数学者で数寄者なのよ。
私が求めてる答えなんて用意されてなくて、ぶっ飛んだ、けど神秘的な数の法則の中で彼は生きてて語られる。
でもって、そんな紫月をずっと観察研究してきた私もきっと『数寄者』なんだわ。
A=B,B=C,
よってA=C。
Aは紫月でBは数寄者。
Cは私で代入すると求められる解は、私は彼と『同等』に変わってて、私の『すきもの』は紫月だって事。ふふっ。
なんのこっちゃ!
証明終わり。
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