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火と花
BLW/553/Cは、虚空を見つめて考えていました。
(エダ・キエザの言うことは当然だ)
(私と無駄話をすることで、彼女がどんな利益をえているというのだろうか)
(なにかの役にたつか? いや、たっていない)
(成功に近づき、金をもうけることを助けているか? そんなことはない)
(そう。私との時間は彼女にとって”無駄”だ)
(それなのに、私はやはり――)
BLW/553/Cはゆっくりと煙草の煙を吐きました。
時間貯蓄銀行の金庫室の一角。そこには、キエザから盗まれた時間の花が保管されていました。赤、オレンジ、黄、ピンク、白……その一角は、色とりどりの美しい花で溢れていました。
「Cara Edda.(親愛なるエダ・キエザ)」
「私はあなたを裏切っているのです。あなたが節約した時間は、全てこの金庫の中。あなたの手にはその一輪すら渡らないのです」
BLW/553/Cは虚空に語り掛けながら、ポリタンクの口を開きます。
「私を接客するはずだった3分間も、きっとこの無数の花の中のどこかにあって、”我々”のうちの誰かの煙草の葉になる運命なのでしょう」
傾けたポリタンクから、オイルが流れ落ちました。
「だが、そんなのは、まっぴらごめんだ」
「――これは、この花は”私”のものだ」
マッチを擦ると、真っ赤な炎が上がりました。
(生の時間の花を焼く煙は……生きた時間は、吸ってはいけない。乾燥させて完全に死んだ時間にすることで、初めて我々の糧となる)
(死んだ時間が人間を殺す毒であるように、生きた時間は我々を殺す毒だ)
(なのに――なぜこの煙からは、いつもの……彼女に巻いてもらった煙草の匂いがするのだろう)
人の出払った深夜の時間貯蓄銀行で、炎は静かに燃え続けました。
ですが、その炎は、ほんの小さな一区画だけを燃やすとひとりでに消えてしまったので、時間泥棒たちは大して気に留めもしませんでした。
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