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人間と人形
時間貯蓄銀行の大敵は子供です。子供に時間を節約させるのは、他の人間よりも遥かに難しいからです。
BLW/553/Cは、そんな子供たちの中でも特に時間貯蓄銀行の障害となっている『モモ』と呼ばれる少女と対峙していました。
「あたしは思うんだけど――この人形じゃ、すきになれない」
(完全無欠のビビガール。60点のビビガール。やっぱり君じゃ駄目だった)
(やめておけ、と言われたが――)
その人形ならば、あるいは少女が気に入るかもしれないことを、BLW/553/Cはどこか確信していました。
――長い沈黙。
そうしてようやく口を開いたBLW/553/Cは、首を振って言いました。
「そんなことは問題じゃない」
馬鹿だな、私は。とBLW/553/Cは思いました。
「いいかね、モモ。きみがいることで、きみの友達はそもそもどういう利益を得ているかだ。何かの役にたつか? ――いや、たっていない。成功に近づき、金をもうけ、えらくなることを助けているか? ――そんなことはない。きみはそういうことを全部じゃまだてして、みんなの前進を阻んでいる。そうだ、そのつもりはなくとも、きみはほんとうはみんなの敵なんだ! それなのに――」
BLW/553/Cは、よほど大切なことを確認するかのように一言ずつ丁寧に言いました。
「それなのに、きみはやっぱり、誰かが好きだなんて言うのかね?」
「…………」
(――そうさ、言い返せないのだよ)
BLW/553/Cは溜息をついて、止めを刺しにいきました。
「無駄な骨折りはやめたほうがいい。我々に立ち向かうなんてできるわけがないからね」
その一言で彼女の気持ちが折れると思っていたBLW/553/Cには、モモから帰って来た言葉は思いもよらぬものでした。
「”それじゃ、あんたのことが好きな人は一人もないの?”」
「…………!!!」
その日、BLW/553/Cは生まれて初めて話術で負けました。いや、もしかすると二度目だったのかもしれません。
どうしてモモに時間貯蓄銀行の秘密を話してしまったのか、彼自身にもよくわかりませんでした。ただ、それが致命的で、決して許されないことだということだけはわかっていました。
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