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煙草屋娘と融通の利かない銀行屋
煙草屋に入っていく灰色の男の人影一つ。
男のことにも煙草屋のことにも気づかない風に、道行く人々は足早に行き交っていました。
「ブルーさん、来てくれたんだ。」
「約束ですからね。」
店に入って来たBLW/553/Cとキエザが言葉をかわします。
「律儀なのは美徳ね。調子の良いことだけ言って、平気で約束を破る奴も居る世の中だから。」
「――本当に、何で来たんでしょうね。」
不思議なことでした。時間貯蓄銀行の実態は『時間泥棒』。時間を返すつもりなど毛頭ない詐欺銀行です。
そもそもの契約が詐欺だというのに、なぜ律儀に約束を守る必要があるのでしょうか?
「足がこちらに向いたんですよ。たまたまね。」
「うーん、40点ね。気の利いた口説き文句でも言えれば良かったんだけど。ま、頑張った方かな」
「???」
「ブルーさん、道のりは果てしなく長いわよ。大丈夫、お姉さんがなんとかしたげるわ」
「??????」
不思議そうな顔をしたBLW/553/Cを、キエザは楽しそうに見つめます。
「おっと、もう3分ね。はい、これ煙草。持ち込みの煙草葉を巻いて欲しいだなんて、あなたも趣味人なところがあるじゃない」
キエザはBLW/553/Cの背中を叩きます。時計を見ると3分を少し回ったところでした。
「12秒オーバーです。もう少し接客に効率化の必要がありますね」
「はい、マイナス100点。合計でマイナス60点ね。こりゃ、先が見えないわ……」
「???????????」
それからというもの、BLW/553/Cは、煙草屋に毎日足を運ぶようになりました。
守る必要のない契約に、不思議と足を動かされたのです。
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