時間泥棒とクレーマー

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時間泥棒とクレーマー

 季節が一つ過ぎました。  気のせいか、少しずつ街は忙しく、せわしなくなっていました。混雑した煙草屋に、苛立った客の怒号が響きます。 「青い箱だって言っただろう! 灰色のパッケージと、どこをどう見れば見間違えるんだ」 「申し訳ありません! 今すぐに取り替えますので」 「そういう問題じゃないんだよ。時間を無駄にさせられて、誠意を見せて欲しいって言ってるんだよ、こっちは」  平謝りのキエザを、乱暴な客が怒鳴りつけます。  その時、扉の方から抑揚のない声がしました。  「接客時間10分13秒。規定の3倍以上の大幅オーバーです。」  「なんだ、てめえは。殴られたいのか?」  「おっと、時間貯蓄銀行に喧嘩を売らない方が良いのでは? あなたも時間を貯めているのでしょう」  「こんなところで言い争いに時間を割くなど、酷い”時間の無駄”だ。その1分を削るためにみんな日々頑張っているというのに」  「むむむ……」  「煙草は買えたんでしょう? 出口はあちらです」  言い負かされた客は、すごすごと帰っていきました。 「驚いた。あなたもやる時はやるのね」 「無駄なやり取りで1分が過ぎてしまいました。煙草を巻いてください」 「はいはい。今日のあなたは100点ね。少しだけ見直したわ」 「??? どういうことでしょうか?」 「なんでもないわ、こっちの話」  そうして、今日も短い3分間が過ぎていきました。
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