手紙と青インク

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手紙と青インク

 季節が過ぎ、駅前広場の木の葉が色づいていきます。しかし、綺麗に色づいた葉を見上げるために立ち止まる人は誰もいませんでした。  ランプの灯る机の前で、キエザは手紙を書いていました。 『Caro Lauro(ラウロさんへ)  お元気ですか? こちらはとても忙しくて、こうして筆をとる時間も満足に取れないくらいです。  本当は、もっとたくさんお手紙を書きたいのだけれど、将来のための時間を貯めないといけないから。ブルーさんが言うには、今時間を貯めておけば将来に残すことができるそうです。節約した時間が、将来あなたと一緒にいられる時間になるのが楽しみです。  ブルーさんの話は、以前しましたっけ? あの人は本当に変な人です。悪い人じゃないのだけれど。  この間なんて、他にお客さんも居ないから頂きもののウイスキーを振舞ったら「私に対する接客時間は残り15秒ですから」って。どうしたと思います?  ――グラス一杯のウイスキーを一息。「強いんですね」って声をかけたんですけれど。「おひゃけはなれていまひぇん、じかんのむだでふから」って回らない呂律で喋るんです。仏頂面の権化みたいに見えるけど、実は結構可愛いんですよ。どこか人間臭いというか……。って人間扱いしてないみたいですけどね。でも、本当に最初は機械か何かみたいに感じてたんです、あの人のこと。  そうそう。ブルーさんってば、他にも――そういえば、こんなエピソードも――』 「…………はー。ダメだ、どうかしてる。おかしいな、私」  机の上には青色のインクと万年筆。青い文字が便箋に連なります。どうしたことか、気付けば話は奇妙な灰色の客のことばかり。夜が更け、書き損ないの便箋ばかりが床に転がっていました。
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