手紙と灰色のインク

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手紙と灰色のインク

『Caro Lauro(ラウロさんへ)  お元気ですか? 今日は、言い辛い話をしなくてはいけません。  これで、お手紙を最後にしようと思っています。あなたと一緒の未来をずっと考えていたのは嘘ではありません。でも、これ以上お手紙を続けることができません、心が張り裂けるように痛いのです。  あなたへの手紙を書いているこの最中にも、私は別の人のことを考えているのです。あなたのことが嫌いになった訳ではありません。その人のことが好きなのかもよく分かりません。でも、そんな気持ちで筆を執るごとに、あなたへの申し訳なさばかりが募ります。  あなたは一つも悪くない。ただ、私がおかしくなってしまっただけなのです。このまま手紙を続けても、私はあなたをいつか裏切ってしまいそうです。どうか私の事は忘れて幸せになってください。 Un abbraccio Eda(エダ・キエザ)』 「…………はー」  キエザは大きな溜息をつきます。 「馬鹿だ、私は」  机の上には灰色のインク瓶と万年筆。手紙の青文字は途中から灰色の文字に変わっていました。  夜が更けていきます。キエザは書き終えた手紙の前で、ランプの灯りをじっと見つめていました。
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