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仲違いとぼんやり
灰色の街に雪が降っていました。
このところいつも足早な街の人々も、今日ばかりは少しだけゆっくり歩いていました。
こんな日にも、灰色の常連はキエザの店にやってきます。
「このところ、手紙を書くのをやめたようですね。時間貯蓄のためには良いことです」
「まあね……」
「しかし、その分何もせずにぼんやりしている時間が増えているのではありませんか? 時間の無駄にもほどがある」
咎めるような口調のBLW/553/Cに、キエザが言い返します。
「私の時間を、私がどう使おうと私の勝手でしょ?」
「それでは時間の貯蓄ができませんが」
「もういいの、別に」
「あなたは別に良くとも、私は困ります」
キエザは、この仕事のことしか頭にない灰色人生の男を睨みつけました。
「ええ、ええ、困るでしょうね。あなたは銀行員、預金をしてもらえないと商売あがったりだものね」
「……もしかして怒っていますか?」
「別に」
「とにかく、私はあなたにぼんやりと時間を過ごすことを止めさせなければなりません」
「……時間を貯蓄させるために?」
「それ以外に何がありますか?」
きょとんとしたBLW/553/Cを見て、キエザが大きな溜息をつきました。
「そう、最初からあんたはそうだよね。分かってたことじゃない」
「――分かった、今日からぼんやりと過ごすのはやめる。本当にくだらないことだわ」
「それは、何よりです」
「あんたは結局のところ0点よ。絶望的にどうしようもない。本当にどうかしてる。どうしてこんな奴に――」
キエザの目が潤むのにも気付かず、BLW/553/Cは語ります。
「そう、これはあなたのためでもあるんですから。もっと成功して、もっと店を大きくして、もっと豪華な生活をして――」
「本当に、くだらない」
キエザは吐き捨てるように言いました。
「キエザさん……?」
「3分経ったわよ。煙草はできたから、それ持って帰りなさいよ」
「ですが――」
「時間の無駄をやめるなら、こうしてあなたと話す時間こそ一番削らなくちゃね」
「……そうですか」
「もうさ、”あんたのことを好きな人なんて、一人もいないんじゃないの?”」
キエザはそう言って笑いましたが、その声はほんの少しだけ震えていました。
BLW/553/Cは立ちすくみ、そうしてしばらく逡巡してから頭を下げます。
「……今まで毎日のようにお時間を取らせてしまって、本当にすみませんでした。失礼します」
BLW/553/Cは出口の扉に足を向けます。キエザはその灰色の背中を見つめながら、ぽつりと呟きました。
「馬鹿だ、私は……」
街は眠らず、煌々と光を灯していました。まるで、キエザの気持ちなど気にも留めないかのように。
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