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「店長ー、お電話です」 事務員がそう呼びかけてきて、佐田は受話器をあげた。誰からの電話とか言えよ、と舌打ちする。 「はい」 「あ、佐田さん!お疲れ様ですっ」 受話器から聞こえた大きな声に、思わず受話器を耳から遠ざける。朝っぱらから大声で電話してきたのは龍崎だった。 「昨日はお昼ご飯、奢ってもらっちゃって!ありがとうございました」 「え、あの…」 奢った、というより先に出るために一緒に勘定しただけなのに。佐田がぽかんとしていると、龍崎はそのまま続けて話す。 「来週、そっちで新人店長研修があるんですけど、夜飲みに行きませんか?奢っていただいたお礼です」 もっとお話ししたいです、といってくる龍崎。佐田はどうして俺みたいなのと飲みたいのかと聞いた。こんなに卑屈で対して面白くもない、尊敬するとこもないような自分に。 「いいじゃないですか、行きましょうよ〜〜」 (何なんだこいつ…) そう思いながらも、思わず笑ってしまった。佐田が笑うところを見たことがなかった事務員が、驚いた様子で見ていた。 「分かったよ。面倒だから携帯番号、教えろ」 *** 龍崎の新人店長研修の日の夜、二人は待ち合わせをして居酒屋へ向かった。 お疲れ様の乾杯をした後は、龍崎ばかりが話していたが酒が深まるにつれて佐田も言葉が多くなっていた。 「これ以上どうしろっていうんだよ!」 ドン、とジョッキを勢いよくおいて佐田が叫ぶ。店内の客が数名、じろりとこちらを睨んできたので龍崎が慌てて佐田を宥めた。 「佐田さん落ち着いてくださいよ…。弱ったなー、からみ酒なんですねえ」 佐田の肩を抑えながら龍崎は苦笑いする。佐田は深酒になると愚痴が出るようで、ほぼ仕事の話だ。 店舗のスタッフとうまくいかない事、売上が伸びない事、自分の管理力のなさ…とにかく鬱憤が溜まっていたらしい。 「お前はいいよ、人付き合い上手だし。可愛らしい、好かれそうな顔してるし」 「褒められてますね、僕」 「あーあ、どうすりゃいいんだよ」 「簡単ですよ、佐田さん」 「…?」 机に顔を乗せていた佐田は、龍崎の方を見る。龍崎の顔が近くにきて耳元で囁かれた。 「元々、優しいんだから、気張らずにいればいいんですよ」 一瞬だけ、ぞくっとしたのはきっと吐息が耳にかかったからだ、と佐田は思うことにした。 「…俺が優しいとか、そんな訳」 「僕は、知ってますよ」 「…」 歳下に同情されて、慰められるなんてまっぴらなはずなのに。龍崎が隣でこうしていてくれることが心地よい。 多分これも、酒のせいだと佐田は龍崎の方へ頭を近づけて、そのまま寝てしまった。 その日以来、龍崎は頻繁に佐田に連絡してくるようになった。ほぼ毎日、メールが入るようになり佐田は初めこそウンザリしていたが、そのうち慣れてきた。 龍崎の強い要望で、2人で飲みに行くこともたまにある。龍崎が住んでいるエリアはかなり遠い為、こちらで飲む時は、ホテルに泊まっていた。 そこまでして来なくても、と一度佐田が言ったが自分もストレス解消に飲みたいんです!と龍崎は答えた。
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