駅前の憂鬱

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 駅の時計が一二時を指す頃、灯りが消えて誰もいない。  田舎の駅の終電はとっくに過ぎている。少女は両手を静かに下ろし、自然と頬を挟んだ。フウとため息をつく。  今日も一日勤めを果たしたという意味の安堵感だけではないようだ。  熱いわ。今日のため息。やっと羽を伸ばせるわって意味もあるけど。オブジェとして役割がある私たちは夜中にみんな凝り固まった体を伸ばす。でも確か渋谷のハチ公さんは、もう何十年間も同じ姿勢のままでいるって聞いたわ。その道のベテランなのよね。たぶんこれは自分にしかできないことだって、相当の誇りと責任感持っちゃってるわね。  そんなことはよくて、私忘れられないの。  今朝の制服のお兄さん。日差しが差してくるような笑顔、奥深い優しさを潜めた瞳。考えてるだけで、すぐに一日経っちゃった。  不思議。  こんなこと今までなかったわ。人間は私を存在するものと認識しながら、構ってくる人はいないもの。ぽかぽかするような好意を見せてくれたのはお兄さんが初めて。彼に会ってからなんだか、心がムズムズするもの。あれ、そういえばこれは掻いても治らないわね。
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