彼女の暗証番号

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彼女の暗証番号

親友の銀行キャッシュカードを盗んだ。 正確に言えば、目の前で奪ってきた。 あたしの彼氏をとった罰だ。 りらちゃんはあたしと違って美人で、モテモテで、恋人のいる男たちすらいとも簡単に陥落させてきた。 だからあたしに久しぶりの彼氏ができたとき、余計なこととは思いつつ念押ししたのに。絶対にとらないでねって。 「いくらなんでも、親友の彼氏に手を出すわけないじゃん」 りらちゃんは、はっきりとそう言った。 「仮にだよ? 仮にそんなことになったら、私のもの何でも取り上げていいよ」 「ほんとに?」 「ほんと。物でも、お金でも」 きっちり言質を取ったのだ。 ――それなのに、さっき。 りらちゃんに貸していた本が急に必要になって、アポなしで彼女の部屋を訪れた。 男関係にも身の回りにもだらしのないりらちゃんは、催促しないと他人から借りたものを返さないし、部屋の鍵だって不用心にも開けっ放しにしていることがある。 チャイムを鳴らしても応答がなく、ドアノブを回してみたらかちゃりと開いた。 玄関に見慣れた男物の革靴が並んでいるのを見たとき、頭が真っ白になった。 小さな1Kの部屋の奥で、布団がふたりぶんの人間のかたちに盛り上がっていた。 あたしは無言でずんずん踏み入り、床に放り出されていた彼女のショルダーバッグから財布を取り出し、一万円札とキャッシュカードを無造作に抜き取った。 「……八重ちゃん」 玄関を出るときりらちゃんの細い声がしたけれど、あたしは振り返らなかった。
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