序章

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序章

 とあるマンションの一室の前に、1人の宅配人あり。 ピンポーン  この部屋の住人、安藤(あんどう) 拓馬(たくま)がカメラ付きインタホーンを覗く。 「ね~だ~れ?」 ベッドに寝ている女性が言う。 「宅配っぽい」 眠そうにしている安藤が答える。  この格好は宅配かな? 赤い作業着に赤い帽子、全身赤いその人物を眺める。 「はい」 「宅配便で~す」 「今行きます」  ドアを開けると、全身真っ赤な宅配人が花を持って立っていた。  実際その姿を見るとゾクッとした。  凄く目立つ格好。花は真っ白で両手に抱えていた。何故か不気味に思える。でも何だかお洒落。帽子にワンポイントの花の刺繍が付いている。  花を受け取り受理書にサインする。 「そのお花は貴方にお似合いですよ」 部屋の奥から、玄関を覗いている女性をチラ見し、宅配人は言った。  宅配人に挨拶をし、安藤は部屋へ戻った。 「真っ白で綺麗な花ね、誰から? もしかして彼女?」 下着姿の女性、千歳(ちとせ) 美幸(みゆき)が言った。 「うん、まぁ そうだね」 安藤は苦笑いしながら答えた。  安藤は交際相手が居るのに、千歳とも付き合っている。つまり、浮気をしていた。 「私は気にしないけどね」 安藤に抱きつき、キスをしながら言う。 「安心して、本命は美幸だよ。その内、あいつとは別れるから」 安藤も、美幸に答えるように抱きしめ、熱いキスを交わす。  内心、別れる気はさらさらないと思っている。もう1人の彼女、河本(こうもと) 沙織(さおり)は性格、器量ともに良し、スタイルも抜群。こんな女性を手放すわけはない。こっちが本命。美幸こそ浮気相手。  別れる気がないなら何故浮気してるかって? 顔面と身体良いから。そんな女性が近くに居たら、手に入れたいと思うのが普通だよね。(さが)ってやつだよ。もちろん美幸とも別れる気はない。  花の名前はスノードロップ。花にはメッセージカードが付いていた。花言葉を添えて。 『あなたを愛しています。これからもよろしくね。沙織』  花言葉は〖希望 慰め〗  希望と慰め……。 「へ~なんだか一途な彼女ね。花言葉が、希望と慰めだって。案外浮気がバレてたりして。そんな事より早く支度しよ」 千歳は意地悪そうに言った。  花を窓際に飾り、出かける準備をしようとした。飾った瞬間にゾワッと鳥肌が立った。 「なあ美幸、今日はこのまま部屋で過ごさないか? 」 安藤は外に出る気にならなかった。何故か一松の不安を覚えた。 「だーめ、早く出かけましょ。今日は新作の服を買うんだから」
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