部屋の開け方

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部屋の開け方

「こんなはずじゃなかった」 田中太郎はベッドの上で体育座りをしながら呟いた。 この数ヶ月の間、暗がりの中で生活を送っていた田中の眼は光を捉えることが難しくなっていた。その眼の動きは恐ろしく緩慢になっていたが、彼の思考速度に比べたらまだ速いほうだった。 田中はこの六畳一間のこの部屋に数ヶ月もの間、自発的にこもっていた。誰かから強制されたわけでは断じてない。自らの強い意志で、この部屋にこもっていたのだ。そして、そろそろ外の世界へ出てみたいと思った時には、彼は自分の部屋から出れなくなってしまっていた。
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