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山本は、久しぶりに会ったからと俺を居酒屋に誘う。最初は断ったが、いつになく山本の押しが強く、気付いたら居酒屋についていた。
「何だよお前…いつの間にこんな強引になったんだ?」
「はは、僕も変わったのかもしれませんよ」
そうか、と乾いた声で言って、俺は中に入った。こいつがいると、昔を思い出す。みんなで騒いだ、あの時代…俺たちはやんちゃで生意気で、自分が一番強いって証明したくてやきもきしていた。
中に入って店員に案内される。二人用の席に案内されると、山本は大人しく座った。
向かい合うように座って、おしぼりを受け取ると山本は生ビール、と言った。続くように自分もビールと言った。
「いや~、ホント懐かしいです…みんな元気ですかね…」
山本とは高校時代の先輩後輩の間柄だった。
剣道部に所属していた俺は、当時副部長をやっていたのだった。
「…何でお前、あんなとこにいたんだ?もしかして、最寄駅?」
「いえ、今日は仕事でたまたま…田淵さんは?」
「俺は職場がこの駅だから」
えっそうなんですか、と山本が驚きの声をあげる。田淵さん、今何の仕事してるんですか、そう聞かれて俺は、ふと言葉に詰まってしまった。
「お待たせしました~生ビールでーす」
丁度いいタイミングで店員がビールを持ってきた。
「取り敢えず乾杯かな」
「そうですね」
ジョッキを片手に、二人で乾杯をする。
ごくごくと飲み干す山本に、俺は少し寒気がして飲むのをやめた。
「田淵さんったら、そうやってスカしてるとこなんか変わってないっす」
「何言ってんだお前。ちょっと寒くなっただけだよ」
あはは、と山本は笑う。
こいつ、変わってない。
いつでも真ん中で、こいつは笑っていた気がする。
俺は…あの時は笑っていた。
でも、今は…
「今度、斎藤さんや橋本さんも呼んで飲みましょうよ」
心臓が止まるかと思った。
「えっ」
「斎藤さんですよ、橋本さんも…あんなに仲が良かったのに連絡とか取ってないんですか?」
「取ってないよ…お前、取ってんの」
俺は狼狽えながら質問で切り返す。
「ちょいちょい連絡してますけど…ホントに一回も会ったりしてないんですか?」
「ないよ」
へー、と不思議そうに山本は言う。
確かに、あんなに仲が良かったのに全く音信不通になるなんて、普通ありえない事なのかもしれない。
「今度、皆で飲み会しましょう。日にち決まったら連絡しますから、アドレス教えてください」
にっこり笑って山本はそう言うと、スマホを差し出してきた。
俺はうん、とだけ返事をして、ガラケーをポケットから出した。
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