10話「ブラインド・ゾーン」

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 * 若松商店街、逢坂珈琲店。 喫茶店と言いつつも、グルメサイトで5つ星中の3つを取れるくらいには評価のある店は、コーヒー以外にも各種料理に事欠かない。しかし大丈夫かなと心配したくなるくらいに空いている店のカウンターから一番離れた小さいテーブル席に2人は座る。 「すまない、時間を貰って。」 「資料の事でしたら、私も気になってましたので。」 店員がお冷とおしぼりを2人分用意し、注文を聞いて去って行った所で話は始まった。 「その資料だが、先に言っておくと俺が個人的に事件についてメモしたものだ。」 「立島の殺人事件ですよね?さっき黒沢さんご自身が捜査は早急に打ち切られたと言っていましたが。」 「被疑者の身元が判明し、犯行に使用された日本刀が県内の古物商から盗んだものだと判明した所でこれ以上の継続は難しいと判断して打ち切ったんだよ。…死人から話を聞く事ができないしな。」 グラスに付いた水滴が合わさって、梓の肺を締め付けていく。今自分達が関わっている事件のとんでもなさは身に染みていたつもりであったが、それを隠れ蓑に何か深いものに足を突っ込んでいる事に気が付いたのである。 …しかし、それは悲しい程に冷たい。 「俺が殺してしまった被疑者の事や、事件現場となったマンションの建設、部屋の分譲に関わっている人の事、被害者の身辺についてもまとめている。」 「私にはそれが、罪滅ぼしのように聞こえます。」 「そう思ってくれても良いな。」 店員がホットコーヒーとアイスコーヒーを持ってきた所で、一度話は中断された。 「現場にいたんだが、俺は負傷して1ヶ月入院していたからその後の捜査に関わっていない。今でもその事を申し訳なく思っているよ。」 ホットコーヒーを口にして、梓は緊張を和らげる。言葉には出ていないが今の所分かるのは、辰実が個人的にまとめた事件に関する資料が、爆破計画を明かしていく上で重要なファクターとなる…予感がする事。 「…もしかして、黒沢さんと関係のある方が被害者の中にいたんですか?」
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