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逮捕手続き、送致勾留の時間を使用し、警察は検察が事件を起訴するかしないかを決める判断材料を準備するというのが、事件捜査の流れとなる。
警察官は事件の被疑者を逮捕してから48時間以内に事件の概要と証拠を揃え、これを検察官に送致しなければならない。送致を受けた検察官は被疑者から聴取をした後、必要があれば10日の勾留期間(更に必要があれば追加で10日)を裁判所に求める事ができる。
勾留が認められた=開始されたのが昨日となると、本日を含めて9日以内に火薬の出処を発見するか聞き出すかをしなければならないのだ。
「調書を見てくれれば分かると思いますが、自分等が強盗を働いた事はちゃんと自白してくれてるのに発煙筒の事となるとどうも口を割らない。」
「余程、言いたくない事があるのでしょうか。」
「黒沢さんはどう思う?」と松島は話を振った。見た感じを見るに警察官としての経験も辰実よりあるように見えるが、自分よりも若い男に意見を求める謙虚な様子に話を聞き出せない事への悔しさと疲労が感じられる。
「何か取っ掛かりがあればと思うんだが…、上手く聴取できなくて申し訳ない。」
調書を松島に返すと、「そうでしょうか?」と辰実は答えた。自分の様子を見て気を遣っているのであれば申し訳ないと思ったが、このニュアンスは何か考えがあっての事だと松島の直感は自らに訴えかけた。
「松島さん、今から言う事を取調の時に気を付けて頂けませんか?」
「構いませんが、何に気を付ければ?」
「絶対に、立島事件というワードを出さないで下さい。」
立島事件と聞いて、松島に緊張が走る。当時の警察署にいなかったものの、23人が同じ場所でその日に殺害されたという凄惨な事件と言われれば、県警の1人である以上忘れる事のできない話であった。
「この調書ですが犯行に及んだ手口から各被疑者の役割分担、それにこの3人が立島事件で養父を殺害された事と、その養父との関係性まで事細かに録取されている。この3人が昨今どういった生活を送っているのかも詳しく書かれていますね。これだけ一度に聞くのは至難の業です。」
「そう言ってもらえるのは有難い。」
辰実と話をして、松島はどこか疲れが取れたようである。
「…しかし、何か取っ掛かりがあるのであれば先に黒沢さんが聴取をした方が良いと思うのだが。」
「先にこちらもやる事がありますのでお構いなく。」
一礼し、辰実は席を立つ。続く形で梓も後を追って2人は生活安全課へと戻ってきた。
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