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「そっちはどう言ってる?」
「自分達の自転車が乗り捨てられてると思って乗ったら、いきなり声をかけられたと。自転車については、被害届が出てると。」
(…確認すれば分かる事だな。)
辰実は、梓と一緒に聴取をしていた制服の若い警察官に声をかける。ちょうど、高校生風の男女2人が「商店街にある交番から来たお巡りさんに対応してもらいました」と説明していたところだった。
「今日、相談員さんは来てるか?」
「来てます。」
「なら交番に連絡を入れてくれ。この2人の名前で被害届が出てるかと、もし出てたなら自転車の特徴を教えてほしいと。」
了解、と返事し若い制服の警察官は取り出した公用携帯で交番に連絡を入れていた。辰実は梓に、「分かったら教えてくれ」と言い錦田の方に戻る。こちらの状況は芳しくなく、女性の方が自分の自転車を勝手に乗って行かれそうになった事に対して怒り心頭に発していた。
「ちょっとお巡りさん、どうしてすぐ逮捕しないんですか?」
女性の方を落ち着かせようと言葉を選んでいる錦田の側に、辰実が割って入る。相手が興奮していればこちらも心を乱しそうになるのだが、警察学校から常に「人は鏡。自分が焦れば相手も焦る。」という言葉を刷り込まれてきた1人である辰実は、落ち着いて話をしようとしている錦田に(必要無いとは思われるが)助け舟を出す。
どこで言葉を挟むか様子を見ている辰実に、「2人の名前で被害届が出てました。白色のママチャリです。」と書かれたメモを梓に見せられたのが合図となる。
「あっちの2人は、自分達の自転車だと思って乗ったと言ってたでしょう。」
「でも勝手に人の自転車に乗っていったんですよ?」
「双方の意見が食い違ってる今、どの意見に対してもしっかり真偽を見極めなければなりません。…判断までもう少しお時間を頂く事になります。」
冷静な辰実の様子に、女性もフェードアウトした。
「さて、馬場ちゃんならどうする?」
「若松商店街は自転車の乗り捨てが多いですので、別の場所にある駐輪場も見てきてから考えたいです。」
辰実は高校生風の男女に「この辺で商店街に自転車で来る中高生は多いのかな?」と訊くと、「汽車で駅まで来てる人とかが、若松商店街までのお金を浮かせたくて自転車に乗ってるのはあるかも。」と女子が答えた。
「駅前から若松まで自転車漕ぐと、思ったより疲れるんです。」
駅前と言われれば、県民にとっては市内の中心にある場所の事を指す。通報者2名を錦田に任せ待機してもらい、辰実と梓は制服1名と高校生風の男女を連れて商店街の別の駐輪場を確認する事にした。
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