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結果、別の駐輪場で2人の自転車を発見する。
辰実は待機してもらっていた錦田に、「自転車が見つかった」と連絡を入れた。錦田はすぐさま通報者の2人にそれを連絡し、続けて高校生風の男女が謝りたがっていると伝えると「大丈夫ですよ、自転車が盗まれたとは知らなかったですし。見つかって良かったです。」と言って通報者は去って行く。
『おう、宮内や。』
「黒沢です。自転車泥棒の件ですが、事件ではありません。」
『ん?それはどういう事や?』
「少年少女が自分達の自転車と間違えたようです。」
『詳しくは署で聞こか。…そろそろ、松島の奴が取調を終える頃やで。』
間に合って良かったです、と辰実は答え捜査車両に乗り込んだ。宮内に「ではすぐ戻ります」と言うのより先に、梓は運転席でアクセルを回してサイドブレーキを上げレバーをⅮの位置に動かす。
「一方の話を鵜呑みにせず現場判断ができる、やるじゃないか馬場ちゃん。」
「ありがとうございます。」
(嬉しいけど、面と向かって言われると恥ずかしいな…)
辰実から目を逸らすように、梓は車の進行方向をじっと見ていた。安全運転の後、数分で署に到着する。
*
新東署生活安全課。
「成程、通報者2人の自転車も通報された2人の自転車も全く同じ見た目やったと。」
「被害届に書かれていた特徴とも一致しました。…勘違いで問題は無いでしょう。」
「事件で無いんやったら、それが一番や。」
宮内の目線が、自分のデスクにいる梓へと向く。彼女が一心不乱に紙にペンで何かを書いているようであった。
「で、馬場ちゃんのアレは?」
「捜査の心構えというのを叩き込んでます。」
「お前なあ、いくらワシが大阪出身言うたって雑なボケは拾えんぞ。」
自分のデスクに置いていた煙草の箱、そこから1本取り出しライターで火をつける宮内。上を向きゆっくり煙を吐いて、辰実との話に戻る。
「馬場ちゃんには何をさせとるんや?」
「スケベなニワトリを描いてもらってます。」
「突飛にも程があるぞ?…いやワシどっかで聞いた事あるかもしれん、ちょっと待ってくれ。」
宮内が記憶を探っている間にも、右手の指に挟んだ煙草はじりじりと焼けていく。
「思い出せん。それでお前はそんな変な生き物描かせて何をしたいんや?」
辰実は、小声で耳打ちする。その内容は聞こえのぶっ飛び具合とは裏腹に、捜査に当たるときの考え方としてはかなり的を得てはいた。
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