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「被疑者の取調が終わったそうや。」
「…でしたら何か分かった事があるか聞きに行ってきます。」
「ほな頼む、松島っちゅう奴や。」
*
刑事一課。先程取調べを終えた松島豊(まつしまゆたか)は、難航している取調にため息をついた。精悍な顔をしたスーツ姿の男だが、どうしてかフォーマルが崩れてしまったように見える。
強盗事件の被疑者を交番の警察官が現行犯逮捕し、犯行の状況と動機については聴取し現場証拠とも合わせて昨日のうちに検察官に送致する事はできた。請求が通ってまずは与えられた10日間で特に明らかにしていなかければならないのは、被疑者が使用した発煙筒の入手経路であった。
「すいませーん、生安の黒沢ですー。」
「同じく馬場ですー。」
生安が?と眉をしかめる松島。生活安全課員だと言う2人は仏頂面の男性と、緊張しながら刑事一課に入ってきた女性のコンビ。「松島さんはどちらに?」と入口すぐのデスクに座っている若い男に聞いていたので、ここだと手を挙げて反応した時にその答えが浮かび上がる。
デスクで2人を立たせて話をするのもしのびないと思い、挨拶を交わした後に部屋の応接スペースを勧めた。気づいた若い刑事が、2人と松島に急いで麦茶を用意する。
「火薬の出処ですか?」
「その通りです。こちらで捜査する事ではありますが、何か分かっている事があればと思いまして。」
そう言われると、松島は申し訳ないとしか言いようが無い。真面目な男であった。
「証拠品の発煙筒は、どこかで売っているようなものでは無かったです。聞いてもあやふやにされましたが、恐らく被疑者3人ではなく誰か別の奴が用意したものかと。」
「でしたら、急がなければいけませんね。」
勾留機関はひとまず10日と言えど、もうカウントダウンが始まっている。そして時間を与えれば与える程、事件の根本的な解決からは遠ざかってしまう。犯人に時間を与えれば、それだけ証拠隠滅や逃走の可能性を与えてしまうのだ。
梓の視点からは、淡々と話を進めていく辰実の姿が横に映る。
「実行犯の口を割らせるのが、一番手っ取り早いですがね。」
「…ええ、何か取っ掛かりでもあれば。」
辰実と梓は、強盗を現行犯逮捕した際に松島が録取した被疑者の取調調書に目を通しながら話をしている。そこには被疑者の身上(生い立ちや生活の状況等)が書かれていた。
「その取っ掛かりですが、何とかなるかもしれません。」
「黒沢さん、それは本当か!?」
驚いて、松島は上背を前のめりにしてしまう。
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