第1章 最悪の出会い

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『それにしても……』 歩きながら思う 電車を降りホームから改札口に下る階段で 後ろから押され壁に押しつけられた 痛みはほとんどなかったが 胸にもたれかかる髪からふわりと香る 匂いに戸惑った くしゃっとした柔らかな頭が胸にしがみつき その細い指が俺のジャケットを しっかりつかんでいた 甘ったるいが不快ではないそのかほりが まだ身に纏っているようだ 何度も頭を下げ謝罪する そのぽっちゃりとした唇に ほんの一瞬魅入ってしまっていた自分 『面白い女だったな』 小動物のように クルクルと表情が変わっていた 『いそがなくては……』 大通りを抜け一本裏側の道に入ると 小さな川が流れていて 表通りの賑わいが嘘のようだ この前来たときには緑色だった木には たくさんの桜の花が咲き 春の風にそよいでいる しばらく歩くとその桜の木の間に 木製の和風の建物が見えてきた
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