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『それにしても……』
歩きながら思う
電車を降りホームから改札口に下る階段で
後ろから押され壁に押しつけられた
痛みはほとんどなかったが
胸にもたれかかる髪からふわりと香る
匂いに戸惑った
くしゃっとした柔らかな頭が胸にしがみつき
その細い指が俺のジャケットを
しっかりつかんでいた
甘ったるいが不快ではないそのかほりが
まだ身に纏っているようだ
何度も頭を下げ謝罪する
そのぽっちゃりとした唇に
ほんの一瞬魅入ってしまっていた自分
『面白い女だったな』
小動物のように
クルクルと表情が変わっていた
『いそがなくては……』
大通りを抜け一本裏側の道に入ると
小さな川が流れていて
表通りの賑わいが嘘のようだ
この前来たときには緑色だった木には
たくさんの桜の花が咲き
春の風にそよいでいる
しばらく歩くとその桜の木の間に
木製の和風の建物が見えてきた
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