最終作戦

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 帽子屋とアリスが、決意を宿した目で見つめ合う。と。 「あらアリス、帽子屋。早いわね」  通路を抜け、また一人生徒が集う。  新たに加わった小柄な女子生徒に、帽子屋とアリスは揃って目を向けた。 「部長!」 「クイーン」  ツインのお団子ヘアに、ピンクのフリルブラウス、藍色のスカート。  クイーンはいつもと変わらぬ愛らしい格好で、うふふと可憐に笑んだ。 「調理部の顧問から、ちょっと話しかけられてね」 「部活で何かあったんですか、部長?」 「ううん、ただの業務連絡だったわ」  アリスは合流したクイーンと、パチンと両手を合わせた。  三人集合し、残すところあと一人となった場が、一気に賑わいを見せる。   「あとはチェシャだけか」  シャツをブレザーごと捲り、帽子屋が腕を組む。  彼の呟きに、アリスは即座に反応した。 「あ! チェシャといえば、私、良い物を貰ったんですよ!」 「良い物?」  ぴくりと眉を動かした帽子屋を背に、アリスは小屋の後ろに回った。  そして、白い大袋を抱えて登場する。 「じゃじゃーん!」  アリスは得意げに、棒のようなものを取り出して見せた。  毒々しい赤と黄の筒が先端に付いたそれを見て、帽子屋は思い切り苦い顔をした。   「何だそれは」 「帽子屋? 文句あるなら首を刎ねるわよ」  クイーンが強気な言葉をかける。 「チェシャがくれたんです。何かあったら武器にしろって!」  ロケット花火を手に、無邪気な顔でアリスは微笑んだ。  乗り気なクイーンとは裏腹に、帽子屋は(しか)めっ面を崩さない。 「……アリス。今確かに武器って言ったよな?」 「はい、帽子屋先輩!」  アリスはポニーテールを軽く揺らしながら、うきうきと花火を掲げる。 「帽子屋先輩、これ色が変わる花火なんですよ!」 「だから、どうした」  帽子屋は深く溜め息を吐いた。  止めたところでアリスが止まらないことを、重々承知しているためだろう。  目の前ではしゃぐクイーンとアリスに呆れた視線を向けながら、帽子屋は小屋に寄り添うように腰を下ろす。 「やあね帽子屋。こんなか弱い女子に素手で戦わせる気?」 「か弱いか? クイーンが?」 「吊るすわよ」  アリスと共に袋を開封していたクイーンが、口を開く、もとい毒を吐く。  まるでいつもどおりの放課後だ。  緊張と昂った心だけが、祭りの前のように騒がしいだけで。 「部長、チェシャ遅いですね」 「本当。遅刻だったら鼻の穴にコンクリートでも詰めようかしらね」 「ああ、本当に遅──ん?」  帽子屋が言いかけたその時、上の方でガコンという音がした。 「オレなら、さっきからここにいるけど?」  音に続いて、変声途中の男子の声が聞こえた。
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