最終作戦

3/6
前へ
/53ページ
次へ
 地上の三人は、揃って上を仰いで声の主を探す。 「んー、よく寝た。おはよ」  ザッ。  次の瞬間、一人の男子が小屋の屋根から飛び降りてきた。  猫のようにしなやかに、とまではいかなくても、身軽に着地した彼の茶髪がしゃらりと揺れる。 「チェシャ参上っと。五時間目からここで寝てたんだよね」  着崩した制服をはたいて、彼はいたずらっぽく笑んだ。 「やっぱり。先生がまた頭抱えてましたよ」  クラスで一部始終を見ていたアリスは、呆れ声で笑った。  お祭り好き暴走少女、アリス。  苦労性の実質飼育委員、帽子屋。  毒舌キュートな、クイーン。  自由すぎる自由人、チェシャ。  何はともあれ、うさぎ小屋常連がこれで全員集合した。 「ところで、だ」  帽子屋が、重い口ぶりで切り出す。   「チェシャ。何だそれは」  一筋の汗を垂らしながら、帽子屋はチェシャの手持ち品を指差す。  対するチェシャは、あっけらかんと答えてみせた。 「んー? アリスから聞かなかった? 武器だよ、護身用の」  はい、と。  チェシャが笑顔で、帽子屋に新たなロケット花火を渡す。 「これが帽子屋サンのね」  それを聞いた帽子屋の口元が引き()る。 「本当に使う気じゃないだろうな」 「何言ってんの。面白そうっしょ?」  チェシャがニヤリとする。  それは彼が、何かを企んでいる時の笑み。 「あ、出たわ。悪い顔」  クイーンが楽しげに呟く。  帽子屋は溜め息と共に恨み言を吐き出す。 「企みなんか、ニヤニヤ笑いを残して消えてしまえ」  そんな帽子屋の願いも(むな)しく。  アリスは破顔して、チェシャの隣で元気に手を挙げる。   「折角これから戦うんだから、どうせなら派手にしましょうよ!」  どうせやるなら最上に派手に、最高に面白くしたい。  戦いの始まりを告げる明朗な声が、小屋前のスペースに響く。    こうしてうさぎ小屋防衛作戦は、帽子屋に有無を言わせず火蓋を切ったのだった。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加