最終作戦

4/6
前へ
/53ページ
次へ
+++  仕切り直して、小屋の前。 「じゃあ、今日の作戦を確認するぞ」  普段のように雑談を楽しんでいる暇はない。  四人で小屋の前に固まると、帽子屋は早口で最終確認を切り出した。 「チェシャ、説明を頼む」 「了解っと。んー、残念ながら今のオレ達に、取り壊しを撤回させるだけの力はないんだよね」  帽子屋が視線を向けると、チェシャは茶色い頭を乱雑に掻きながら説明を始めた。 「オマケに今は、取り壊しに反対してくれる味方が少ない。そもそも、うさぎ小屋の認知度自体が、まだ低い」 「反対の署名も、思ったように集まらなかったものね」  クイーンが歯噛みして地面を睨む。  チェシャは頭の後ろで手を組んで、言葉を続けた。 「だから一人でも多くの生徒に、取り壊しの『目撃者』になってもらおうと思うんだ」 「目撃者……」  アリスの復唱に、チェシャはニヤリと口角を吊り上げた。 「そう。『うさぎを守ろうと必死で抵抗する生徒』を押しのけて取り壊しを進めようとする、『横暴な学校』の目撃者にね」  彼の提言に、全員が頷く。  取り壊しの業者が入るという状況を逆手に取る。  学校側の横暴さを知らしめるパフォーマンスをして、一人でも多くの同情を買うこと。  それが今回の作戦の肝だった。  チェシャが帽子屋にちらりと視線を送る。  帽子屋は頷いて、説明を引き継いだ。 「ということで、小屋を防衛する組と、『目撃者』となる生徒達を集めてくる組、ここからは二手に分かれて行動する」 「事前の打ち合わせでは確か、アリスと帽子屋が防衛組、チェシャとあたしが宣伝組、だったわよね?」  クイーンが段取りを確認する。  帽子屋は、ああと頷いた後、首を横に振った。 「基本的には変わらない。だが追加で、助っ人が来ることになったんだ」 「助っ人、ですか?」  アリスは少し上擦った声で問うた。  ただでさえ味方の少ない状況で、援軍が来ることはこの上ないほどの朗報だった。 「俺が呼んだんだ。俺の前にここでうさぎの世話をしていた先輩でな。そろそろ来ると思うんだが……」  帽子屋が周囲を見回す。  釣られてアリス達も、きょろきょろと視線を彷徨(さまよ)わせた。  教室棟の端と技術棟に挟まれた小屋前の狭いスペースに、四人以外の人影はない。  学校の外側──金網の向こう、自動車が行き交う道路にも、それらしき人物は立っていない。  四人が視線を小屋に戻した、その時だった。  ガサガサ。  道路に面した金網の下、茂みが揺れる。   「わっ」  アリスは驚きの声を上げる。  全員の視線が茂みに集中する。  やがて、黒髪の所々に葉を付けた男子が、茂みからひょっこりと顔を出した。 
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加