最終作戦

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「そうそう。俺の前に二人ねえ」  懐かしそうに、間の抜けた声で語って。  ヤマネはクイーンとチェシャに、慈愛の表情を向けた。 「俺の仕事は、人を集めることへの協力。クイーン、チェシャ、よろしくねえ」 「「はい!」」 「確か宣伝組は、ビラを配る手筈になってたんだよねえ?」  ヤマネは両名の元気の良い返事を受けて、人差し指を立てた。 「それも良いけれど、放送室の合鍵が、リクエストボックスの中に入っているのは知っていたかなあ?」 「!」 「ビラと放送。この二つで宣伝するのが良いと思うんだけど、どうかなあ?」  ヤマネの提案に、その場にいた者全員がゾクゾクと身を震わせる。  情報は力だ。百人力だ。  頼もしい助っ人が来たと、誰もが歓喜の表情を浮かべる。 「だったら、あたし、放送で呼びかけようかしら」  クイーンが頬を紅潮させながら手を挙げた。  調理部の部長である彼女は、普段から人に言葉をかけたり人を纏めたりすることに慣れている。  このメンバーの中では最も適任だといえよう。  懸念があるとするならば。 「良いのか、クイーン? お前も俺も受験生だろ? 俺は腹を括ったけど、矢面に立てば、内申に響く可能性だって……」  帽子屋が、気遣わしげな顔でクイーンに声がける。  彼女は少し不満そうに頬を膨らませて、言葉を返す。 「ねえ帽子屋、あなたもあたしも普段は割と優等生じゃない?」 「……まあ」  生真面目な帽子屋も、頼れる部長のクイーンも、教師からの信頼はそこそこ厚い。  帽子屋の言えることではないが、だからこそクイーンが不利な立場になりかねないことに、言及しない訳にはいかなかったのだろう。 「あたしの場合、どうしてそうしてるか分かる?」 「さっぱりだ」 「ふふっ、それはね……」  クイーンは腰に手を当て、胸を張る。  そして、清々しいまでに一言。 「はっちゃけたい時に武器になってくれるからよ! 真面目を通すためにおバカやらないなんて、馬鹿みたい!」 「はっ!?」 「という訳で、あんまり馬鹿なことを言うようなら、首を刎ねるからねっ」  ねっ、の辺りで、クイーンは愛らしくウインクを飛ばす。 「部長! 素敵です!」 「さすが女王サマ、カッコイー」  周囲から拍手喝采が沸き起こる。  帽子屋は盛り上がる観衆の中、一人顰めっ面をし、眉間にぐりぐりと指を当てる。 「──っ、ああもう、分かった! 」    が、それも束の間の話。  彼は勢い良く手を下ろすと、吹っ切れたように声を張った。 「危ないことは禁止! 人様の迷惑になることも極力禁止! それだけは忘れるなよ、頑張るぞ!!」 「「「「おー!」」」」  かけ声一発、青空へ響く。  気合いを確認すると、アリス達はそれぞれの持ち場へと散開していったのだった。
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