防衛開始

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 そして校舎の影から、業者の一団が姿を見せた時。 「来ました!」 「むむっ!」  アリスと、業者一行を先導していた男性が、声を上げたのはほぼ同時のことだった。 「校長先生!」  作業着の一団の中、一人スーツを纏った白髪混じりの先導者を捉え、アリスは呼びかけるように声を張る。  呼ばれた彼は、アリスと帽子屋を見回して思い切り苦々しげな顔をした。 「また君らか! 全く、邪魔をするなと何度言ったら分かるんだね!」  校長は神経質そうな声で、対面早々不機嫌さを全開にする。  今回のうさぎ小屋取り壊しを提言し、自ら率先してきた責任者。  彼とアリス達が対峙するのは、一度や二度や三度のことではなかった。 「何度も言っただろう。小屋取り壊しを撤回することはないと」  見飽きた顔にうんざりした様子で、校長は溜め息を吐く。  彼を筆頭に作業員一行は、机のバリケードを挟んでアリス達と相対した。 「いい加減、幼稚な抵抗はやめたまえ!」  学校机の銀色の足の間から、両者は険しく睨み合う。  校長の後ろで直立する作業員達だけが、剣呑な雰囲気に戸惑い視線を彷徨わせている。  帽子屋は校長を真っ向から見据え、足を肩幅大に広げた。 「やめません!!」  腹の底から出された声が、並び立つアリスの頬をビリビリと伝う。  声変わりを終えた少し低めの声は、明確に『否』を告げた。 「ぐぬぬぅ……!」  校長がギリギリと歯ぎしりをする。  予期せぬ対決に巻き込まれた作業員の一人が、遠慮がちに彼に声をかけた。 「あのー……」 「何かね!?」 「わ、私共(わたくしども)は、どうすれば?」  校長は味方にさえ噛み付かんばかりの勢いで振り返る。  と、困りきりの作業員の一団を見つめて一転、ふむ、と満足そうに笑んだ。 「いえ、何でもありませんぞ」 「え?」  尚も当惑した様子の作業員達に、校長は得意気に人差し指を立ててみせた。 「『多少』ごたついていて申し訳ないですが、依頼した仕事に変わりはありません。取りかかってもらえますかな」  校長はニヤリと口角を吊り上げ、作業の開始を指示する。  聞かされていない状況にオタオタしていた作業員達も、やがて頷き合うと、アリス達の待ち受ける学校机の防壁へと足を踏み出した。  その時。 「さあ、さっさと観念を──」  ビュッ。  屈強そうな作業員の合間を擦り抜けて、放たれた液状のものが、コンクリートの地面にビシャッと広がる。 「な、何だねこれは!?」  足元に飛んできた何かを見定めるため、校長は発射元へと目を凝らす。  ふー、と息を吐き出す、アリスが手にしていたものは、透明の小さなピストルだった。
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