プロローグ

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 この中学校には、中庭から延びる細い横道を通らないと、辿(たど)り着けない場所がある。  学校の隅に追いやられた、小さなうさぎ小屋の前。  この場所には毎夕、互いをお伽噺の名で呼び合う奇妙な生徒達が集まって来る。  五月初旬、某日夕刻。  校舎裏のうさぎ小屋の前に、四人の生徒が立っていた。  ポニーテールに、水色のシャツ、白いエプロンの女子。通称、アリス。  ツインのお団子ヘアに、ピンクのフリルシャツを着た、小柄な女子。通称、クイーン。  背が高い、グレーのキャスケット帽を被った男子。通称、帽子屋。  崩れて猫耳のような形をしている、茶髪の男子。通称、チェシャ。  めいめいに好きな格好をしている四人は、真剣な表情で互いを見つめ合っている。 「単刀直入に言おう」  帽子屋の言葉に、場の注目が集まる。 「学校は、このうさぎ小屋を取り壊す計画を進めている」 「そんな! 何でなんですか!?」  アリスが噛み付くように問う。  帽子屋はそれに苦々しい顔で答えた。 「分からん。来年、この中学校が百周年を迎えるから、その行事に関連してなのかもしれない」  帽子屋の言葉に、場が再び静まりかえる。  隔離されたこの場所に、放課後の賑わいは届かない。 「ホワイトと三月(さんがつ)は? うさぎはどうするつもりなのよ?」 「未定だと。どうせ俺達に頼むつもりだろ。今までどおりに、な」  自嘲するように肩を(すく)めた帽子屋の言葉を聞いて、他の三人はぎゅっと拳を握った。 「やってやりましょうよ……!」  白エプロンをぎゅっと握り、アリスが力を込めた目で見回す。 「そうよ。そんなこと、絶対にさせないわ」  お団子ヘアの結び目を引き締め、クイーンが同調する。 「決まりだね。まあ諦める気なんか、(はな)からないけどさ?」  茶髪を()き上げて、チェシャが総意を確認する。  そして。 「よし、皆。早速だが作戦を立てるぞ」  帽子屋の、この提言が。  中学のうさぎ小屋を巡る一連の騒動の、幕開けとなったのである。
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