防衛開始

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『あたし達の仲間は、中庭で今まさに戦っています』  熱の篭った演説が、生徒達に教師達に届く。 『うさぎ達の居場所をいきなり壊そうとする、その横暴を、見逃さないでください』 「なんだね、この放送は!」  熱弁に狼狽(ろうばい)した校長が叫ぶ。 『うさぎ達を守るため、どうか見届けてください!』  顔を真っ赤にした校長はアリス達に向き直り、湯気を立てんばかりに激昂した。 「ピストルに放送室まで無断で使いおって! 後で反省文を書かせてやるからな!」 「これは陸上部が貸してくれたんだけどな、好意で」  帽子屋は少し不服そうに零す。  ライン引きやタイム測定などでしょっちゅう助っ人を頼まれる彼は、様々な部活に顔が利いた。  帽子屋の苦労性も、骨折り損ばかりではないのだ。  もっとも、放送室の占拠は紛れもない事実だったので、大声で反論することはしなかったが。 「むぎぃぃぃ……業者さん方、あの生徒達は後で厳しく叱りつけてやりますから、今は作業の再開をお願いしてもよろしいですかな」 「承知しました」  校長の要請により、止まっていた列が再び動き出す。  水鉄砲に、水風船。  拳銃の正体が判明した今、子供の武器に(ひる)む大人はいなかった。  ジリジリと前線が押し上げられる。 「子供のオモチャだからって、()めないでくださいね!」  アリスはエプロンのポケットから、赤い(しま)模様の水風船を取り出す。  そして机のバリケードの隙間から、業者一行にほど近い地面に投下した。  パシュッ。    一瞬にして水風船が割れる。  中身の液体が飛び散り、周囲に目を突くような酸っぱい臭いが広がる。 「うっ」 「ケホッ」 「こ、これは!?」  鼻を押さえ、()き込みながら立ち止まる一行を見て、アリスはにんまりと笑んだ。 「えへへ、ただの水には濡れて良くても、さすがに酢は浴びたくないですよね!」  アリスは楽しそうに笑いながら、両手に第二弾、第三弾を構える。  余裕の笑みすら浮かべていた業者の顔が、一転して険しくなる。  風船の中身は、先代家庭科教師の置き土産、酢だった。  誤って大量に発注し、賞味期限を超えること数年、なお余った在庫が調理部に押し付けられていたのだ。 「『食品ロスを考えない馬鹿は首を刎ねるわよ!』……これ、部長からの伝言です!」  主に校長の周囲を狙って、アリスは酢風船を爆撃していく。  食べ物を粗末にする所業を許さぬクイーンの言葉は、弾ける凶悪な液体となって、校長達を襲ったのだった。
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