防衛開始

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「ぬぬぬ……お前達、絶対に許さないからな!」  鼻を袖で押さえながら、校長はズンズンとバリケードへ歩み寄った。  臭いにめげず進撃する彼の瞳は、絶対にうさぎ小屋を破壊するという意志に燃えている。 「来ないでください! うさぎ小屋取り壊し、断固反対です!!」  アリスは、チラホラ集まってきたギャラリーに対して主張するように声を張った。  帽子屋が、黄色く大きいタンクの付いたライフル型の水鉄砲を、両手で構えて発射する。 「ふんっ」  大量に発射された水をすんでのところで躱す《かわ》し、校長はバリケードの机の足をガッと(つか)んだ。    机の一つが乱暴に引かれる。  積み木崩しのように、隣り合っていた机のいくつかが、ガラガラと音を立てて地面に落ちる。 「備品は大切に取り扱ってください、校長先生」 「うるさいうるさい! お前達に言われたくないわ!」  帽子屋が窘めながら、両手を広げて防御に回る。  しかし校長は無法者のように、机を次から次へと芝生に放り投げた。    バリケードが徐々に崩壊していく。 「帽子屋先輩、下がってください!」  反撃を試みたのは、傍に控えていたアリスだった。  近くに置いてあった袋を手に取り、即座に中身をぶちまける。  ボフゥ……ッ。 「ゲホゴホッ、ゴホッゲホッ!」  辺りに粉が蔓延する。  校長が、酢の時とは比べ物にならぬほど、尋常でなく咳き込む。 「はーい! 今回の武器は、前席の敵、掃除の厄介者、お馴染みチョークの粉です! チェシャが各教室の黒板消しクリーナーから回収してきたんですよ。掃除にもなって一石二鳥!」  良いことをしました、と清々しいほどの笑顔を見せるアリス。  ただ一人被弾した校長はというと、チョークの粉を頭から被り、目が開けられないようだった。 「ここから先はどれだけ汚したって、掃除当番の管轄外ですしね。後片付けはきちんとするので、撤退してください!」  アリスはそう言うと、少しだけ自嘲じみた笑みを浮かべた。  中庭は掃除されるが、うさぎ小屋へと続く横道の先は掃除されない。  そんな皮肉を込めて言った科白(セリフ)も、校長の咳混じりの声に掻き消される。 「ゴホッ、ゴホ……ふんっ、甘いわ!」  校長はピンクのオーラ(チョークの粉)を纏ったまま、腕組みをして仁王立ちした。  そのやたら自信ありげな態度に、アリスと帽子屋は二人(いぶか)しむ。 「ふっふっふ……どうせお前達は、このままうさぎ小屋の前で籠城していれば良いと、そう考えているのだろう!」  彼は悪役よろしくほくそ笑むと、勝ち誇ったように人差し指を突き立てた。 「チョークの粉も、酢も、水さえも、補給がなければいずれ尽きるだろう! ジリ貧になっているのはお前達の方だと、いい加減気付きたまえ!」
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