防衛開始

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「それは……」  先程まで強気だったアリスは、図星を刺されて言い淀む。  皆で用意した武器も、いつまでもあり続ける訳ではない。  初めからアリス達の反撃は、聴衆を集めるための時間稼ぎでしかないのだ。  帽子屋が焦ったように中庭に目を向ける。  少しずつ増えてはいるが、中庭のギャラリーはまだ十数人しかいない。  集まった生徒達も、『横暴な学校vs抵抗する生徒』というよりは『何かよく知らないけれど反抗している生徒』を遠巻きに見て、不思議がっている様子だった。  まだ負ける訳にはいかない。  ここで負けたら、うさぎ達を守るものはなくなってしまう。 「学校は、うさぎがそんなに邪魔ですか」  帽子屋は語調を強めて詰問した。   「なぜ急にうさぎ小屋を壊すことになったんですか。うさぎの次の行き先もいい加減。なぜそんなに取り壊しを進めるんですか!」 「いい加減にしたまえ!」  ピシャリと。  荒い声で問い詰める帽子屋に、校長はそれ以上の大声で怒鳴りつけた。 「もうこれは決まったことなのだよ。いい加減に諦めてくれ!」 「諦めることなんてできません! うさぎを何だと思っているんですか!」  アリスは必死に訴えかける。  引く訳にはいかない場面。ここが正念場だ。  しかし粘っても粘っても、校長は取り付く島もない。  子供の言う我儘を、本気で取り合うつもりはないといなすように。 「こんな騒ぎを起こしおって。人に迷惑をかけたことが分からないのかね? ん?」 「でも……」  言い返すアリスの言葉が止まる。  水鉄砲とチョークの粉袋を握る手が、小刻みに震えていた。    大人の邪魔をするためアリス達が用いた手段は、到底称賛を浴びるような行いではない。  派手なことが好き。  お祭り好き。  そのために、校則を大幅に無視した作戦にしたのだから。  責められれば、自分達に非がないと、信じきることができないほどに。 「でも?」 「うさぎ達が……」  だからといって、非があるのは学校側も同じことだった。    おざなりすぎる方針。  それに踊らされるうさぎ達。  それなのに自分達が糾弾されている状況に、アリスは歯噛みして下を向く。 「それなら、何をしても構わないのかね?」  けれど、自分達が完璧な正義ではないと、心のどこかでは理解していた。  校長の一言で、帽子屋とアリスは、今度こそ完璧に押し黙った。
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