一転反撃

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一転反撃

 中庭から延びる横道。  積み上げられた学校机のバリケードを、業者一行が淡々と解体していく。  帽子屋とアリスは、中庭の隅に引き摺り出され、校長からの説教を食らっていた。 「お前達、怪しいビラも配っていたそうじゃないかね。誰の許可を得て印刷機を使ったんだ? ピストルだって保管場所から盗んだんだろう?」 「ちが……」  アリスが反論を試みるも、校長の鋭い視線で再び無言に戻る。  印刷機は、階段下に放置されていたものを使った。  境遇がうさぎ小屋に似ていると思って、アリスが前々から気にかけていた機械だった。  ピストルにしても、帽子屋の普段の善行があってこそ容易に調達できたのだ。 「いい加減にしたまえ。いいか、時代は変わるんだ。うさぎ小屋を必要としていた時もあった。今は他に必要なものがある。私が子供の頃、旧校舎から新校舎に変わる時も反対の声はあったものだ。でもお前達は現に今、新校舎を必要としている。そうだろう?」 「……うさぎは」  帽子屋が言い訳を口にしかけて、違うとでも言うように頭を振った。  失われてしまうのだろうか。  自分達の好きな場所が。  うさぎのホワイトと三月がいて。  アリスがいて、帽子屋がいて、クイーンがいて、チェシャがいる、あの場所が。  屈してしまうのだろうか。  『正シイコト』に。  『大キナ流レ』に。  そして自分達のやっていることは、間違ったこととされてしまうのだろうか。 「全く……そもそも、この学校でうさぎの飼育など始めなければ良かったものを。まあ良い、これで正常な流れに戻ったと思えば良い!」  校長は握り拳で息巻く。  彼は眉を上げて説教しているが、その口の端は勝利への確信で吊り上がっていた。 「大体だね、教育委員会が情操教育が何だと言い出さなければ、うさぎなんか飼う予定もなくてだな……!」 「うさぎ、なんか……」  アリスは俯いたまま、ポツリポツリと、校長の言葉をなぞるように復唱する。   消沈した声で呟いた彼女を慰めるように、バリケードの撤去にあたっていた業者一行が、わははと笑った。 「そうそう。『うさぎなんか』のことで無茶苦茶やっていたら、時間がもったいないぞー?」 「聞けば、昇降口で飼うという話で纏まっているそうじゃないか。『うさぎなんか』、そこに居場所があるだけ良いだろう?」  若者を元気付けるかのように、業者一行の声は明るかった。  気遣わしげな声を受けて、アリス達の顔に笑みが戻る、訳がなかった。 「うさぎ、なんか……だと?」  地獄の底から()い出たような声が、周囲一帯に響いた。  帽子屋が胸を張り、高い背丈から校長の白髪混じりの頭を見下ろす。
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