一転反撃

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「こ、こんなことをして、ただで済むと思っているのかね!」  校長が裏返った声で非難する。  彼はいつの間にか横道を抜け、小屋の近くまで来ていた。  チェシャは校長に近付きながら、フンと鼻を鳴らした。 「何それ脅し? そっちこそ、気に入らないことは上から押さえつければ済むと思ってるの?」  そう言うとチェシャは、冷たい目で校長を見据えた。  トレードマークのニヤニヤ笑いも、今は影を潜めている。 「自分達の都合で連れてきたホワイトと三月を蔑ろにして、最後には厄介払い? これだから『アタマイイヒト』は嫌いだ」  低く冷ややかな声に、校長は後退(あとずさ)りする。  壁際に追い詰められた校長は、少しでも反抗しようと異議を唱えた。 「な、何を言っているのかね、全く。君だって成績は悪くないだろう? 横み──」  科白(セリフ)を遮り、チェシャは鋭い声で叫んだ。 「オレはチェシャだよ。アリス!」 「はいな!」  呼応するように、アリスはチェシャの後ろから現れて振りかぶる。  投げつけられた酢風船は、校長のすぐ脇の壁に当たって弾け、辺りに酸っぱい臭いを撒き散らした。   「さあ、降参してください!」 「ふ、ふん。この臭いにも慣れてきたぞ。絶対に降参なんぞせんわ!」  校長は手を腰に当て、大人げなくプイと顔を背ける。  チェシャとアリスの手には、ロケット花火が握られている。  両者動くに動けず。  膠着した状況に、チェシャは困り顔をした。 「この距離で花火やったら、さすがに威嚇の域を超えるよね。怪我、良くない」 「十分、酷いことをやっていると思うぞ、ん?」 「知ーらない。でもこのまま引き分け(スティルメイト)で終わりたくはないなあ」 「何か突破口はないでしょうか?」  チェシャとアリスは二人揃ってううんと唸る。  抜け目なく校長を挟んで逃亡を防いでいるが、怪我を負わせるのはさすがに本意ではない。  悩んでいる時だった。 「おーい、そっちはどうだ」  業者をひととおり駆逐し、少しだけ落ち着いた様子の帽子屋が三者に駆け寄ってきた。   「あっ、帽子屋先輩、聞いてください! 校長先生、まだ降参しないんですよ?」 「そうか、困ったな。……ん、チェシャが持ってるその袋、俺が借りてきたやつか?」  帽子屋はチェシャの担ぐ袋に目を留めた。  立ち話を始めたアリス達に憤慨したのか、校長は一層頑なな態度を取る。 「何人来ようが変わらんぞ! うさぎは昇降口! 小屋は潰す! 全く、なんで『たかがうさぎなんぞ』に執着するんだ!」  校長が再び失言をかます。  あ、とアリスが口を開いた時にはもう遅かった。  逆鱗に触れられた帽子屋は、チェシャの手から袋を受け取ると、その中身をがばりと校長に被せたのだった。
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