一転反撃

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「むぐぐ……どこまでもコケにしおって……! 許さん!」  校長が、帽子屋が手を緩めた隙に抜け出す。  チョークの粉を被ったり道着を被ったりと忙しいはずであるが、彼も中々タフな人物である。  校長の声に応えるように、業者が横道から列を成して小屋前に入って来る。 「やだ、入って来た時に余計な人達まで招いちゃったみたい。打ち上げたいわ」  クイーンが物騒な言葉と共に唇を噛む。  花火を振り回す危険人物が一旦落ち着いたからか、彼らは団結してじりじりと小屋ににじり寄る。  アリス達が集合しても、人数では業者一行に勝てないため分が悪い。   「どれにしましょうか……」  アリスは、花火の入っていた袋の中身をぶちまけた。  地面に転がったイタズラ用の玩具を漁りながら、ブツブツと呟く。 「ライターは点火用……水風船はちょっと足りないですかね……ロケット花火、は、ちょっとだけ飽きたかもしれません……」 「これは?」  チェシャが、細い紐のようなものを拾う。  ニヤニヤと愉快そうに歪めた彼の口元を見て、アリスは、これだ、とライターを手に取った。 「何を……」 「悪く思わないでくださいね」 「王手(チェック)ね」  そして、狼狽(うろた)える校長をよそに。  目を合わせて、いつものように笑い合うと。  アリスは受け取ったネズミ花火に点火した。 「そーれっ」 「ぎゃあああああああああああああああっ」  壁沿いに逃げる校長を追って、アリスの投げたネズミ花火が跳ねる。爆ぜる。縦横無尽に這い回り、飛び上がり、時折驚くほど速く校長に迫る。  ジジジジジ……と、悪魔の呻き声のような音を立てながら。 「おまけですよ!」  ニコニコともう一匹のネズミ花火を放たれ、校長は小屋前中を逃げ惑う。  巻き込まれた業者達が、密集隊形を崩し散開する。  小屋を壊さんと迫る権力。  小屋を守らんとする抵抗軍(レジスタンス)。  それを見届ける観衆。  今度こそ完璧に役者は揃った。  その最高のタイミングで、クイーンが拡声器で演説を再開した。 『署名を集めてもおざなりにあしらうだけで、うさぎをぞんざいに扱おうとする学校に、『やむなく』強硬手段を取らせていただきました! どうか、うさぎを守るあたし達を支持してください。お願いします!』  ワアアア────……  高く愛らしい声で行われた力強い演説を受けて、校舎から、中庭から、盛大な歓声と割れんばかりの拍手が降り注ぐ。  派手なパフォーマンスと演説が、生徒達の心を掴んだのだろうか。  決定的な理由は分からないが、学校に残っていた大勢の人々に、アリス達の思いは確かに伝わったらしかった。
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