一転反撃

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「チェックメイトみたいだな」  少し冷静になった帽子屋が、感慨深そうな顔で聴衆を見上げる。 「これで小屋の取り壊しが破談になると良いねえ。ふああ……」  一仕事終えたヤマネは、眠そうにあくびをして微笑む。 「うふふ、あたし達、結構やるじゃない? 首を刎ねることにならなくて良かったわ」  クイーンが口元に手を当てて可憐に笑む。 「これで、一件落着でしょうか?」 「アリス、花火打ち上げようぜ。祝砲祝砲!」 「はい!」  チェシャがロケット花火を地面に刺し、まともな方法で着火する。  パヒュン、パヒュンと炸裂音が軽妙に鳴る。  夕焼け眩しい小屋の前、次々に上がるキラキラした花火を眺めながら、アリスははしゃいで跳び回った。 「すごい、すごい! 綺麗ですね!」 「うん。中々良い気分だね」 「はい、チェシャ」 「ん?」  アリスはポニーテールを揺らしながら、チェシャに問いかける。 「夢から覚めたアリスは、こんな気持ちだったんでしょうか」 「さあね。けど、少なくともここは現実だよ」 「そうですね」  その言葉を最後に、五人はぼんやりした様子で動作を止めた。  例えるならば、それは体育祭の終わった後。  散らばっていく人や、校庭に並んだ椅子が徐々に減っていくのを見て、楽しかった祭りが終わっていくのを感じること。  少し寂しくて。  微かに残る熱気が愛しくて。  夕方から夜に代わるあの時間の、爽やかな気だるさ。  そんなものに似た感情を、五人は肌で共有していた。 「……おい」  肩で息をしながら、校長が仁王立ちでアリス達を睨む。    状勢は覆り、雌雄は決した。  残ったのは、ぐちゃぐちゃに掻き乱した場の後始末だけだ。 「どうする?」 「目的は達成したし、満足もしました」  アリス達は小声で笑い合う。 「あたしもよ」 「じゃあ、ここは潔く」 「ああ」  彼らは満面の笑みを浮かべながら、校長に向き直った。  そして両手を上げようとした、その時。 「随分と騒ぎを起こしてくれたものじゃないか、ん?」  校長が小馬鹿にするように鼻で笑う。  その様子に、全員が違和感を持ち動きを止める。  彼の口調に、諦めの色は微塵も滲んでいなかった。  
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