七転八倒

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+++  作戦その一、校長室への乗り込み。  参加したのは四人のうち、帽子屋とアリスの二人だけだった。  クイーンは部活の用事で忙しく、都合が合わなかった。  チェシャは「最初は様子見っしょ? いきなり大人数で行っても警戒されるだけだって」ともっともらしいことを言いながら、うさぎ小屋の屋根に寝そべり、ヒラヒラと手を振ってアリス達を見送った。  頭は回るがマイペース。チェシャには往々にしてそんなところがある。 「……まあ、校則違反の茶髪を咎められて話が逸れることを警戒しているのもあるんだろ。チェシャも面倒臭いだけじゃないはずだ、多分」  信じていると言いながら眉根を寄せる帽子屋の背を、アリスは景気よく叩いた。 「まあまあ、今日は二人で頑張りましょう!」 「絶対暴れるなよ」 「はーい」  にっこり返答すると、帽子屋は眉根の皺に指を当てた。信頼がないのはアリスも同じようだ。日頃の行いだろう。  釘は刺したからな、と呟いて、帽子屋は校長室のドアをノックした。  返答を受けてドアを開けると、灰色の髪をバッチリと撫で付けた校長が、ギラリと鋭い視線を寄越した。  事前に来訪を伝えていたのにこの態度とは、どうやら彼はバチバチにアリス達を敵視しているらしい。  負けじと睨み返そうとしたアリスの手に触れて、帽子屋は失礼しますと頭を下げた。 「今日は、急なうさぎ小屋の取り壊しについて、もう少し話が聞きたくて伺いました」  促されてソファに座ると、開口一番帽子屋が切り出した。  対する校長はフンと鼻を鳴らし、やれやれと手を振った。 「君には先日も言ったがね、もうこれは決定事項なのだよ。我儘を言っていないで受け入れたまえ」 「なっ……!」 「取り壊すのが決まっていても、うさぎ達のこれからについて不安があるまま進められるのは納得できません」  帽子屋は感情を抑えた声で、淡々と主張を続ける。  横で今にも立ち上がりそうなアリスを、片手で必死に押さえながら。 「それについては、昇降口で飼って良いとも伝えただろう。 何が不満なのかね?」  不機嫌を隠そうともせず、校長が返す。  帽子屋の眉がピクリと動いた。 「前に教えてもらった条件ではうさぎの健康に悪いと思ったから、こうして来ているんです」 「他の小学校で、ケージに入れて昇降口で飼っているという話を聞いたから、うちもそれに倣って良いだろうと判断したんだ。それとも何だね? 君はその小学校にまで難癖を付けに行くのかね?」  ガタン。  嘲るような返答に、アリスは我慢ならずついに立ち上がった。 「何ですかそれ! それが、何で! 小屋を壊す理由になるんですか!」  鼻息荒く(まく)し立てる。  横目で見た帽子屋は、アリスを見上げながらこめかみを押さえていた。
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