夢ノ後先

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 しかし、うさぎのホワイトと三月がいないことに気付き、アリスはクイーンに問うてみた。 「部長、ホワイトと三月はどこにいるんですか?」 「……それが、分からないの」 「それに、あの昨日の人達は……」 「そういえば……」 「あの人達って、一体誰だったんでしょうね?」  二人揃って首を傾げる。  二羽も二人の青年もいないなんて。  考えていたアリスとクイーンは、不意に顔を見合わせた。  落ち着きがあって、少し神経質な白うさぎのホワイト。  時計を気にしていた、大人な雰囲気の白の青年。  いつもソワソワしていて、フワフワ柔らかい茶うさぎの三月。  それと似た色の髪で、落ち着きなく跳ねていた茶の青年。 「……まさか」 「でも似たような色よね」 「そういえば原作のアリスでは、白うさぎは時計を……」 「……いや、ないわ。だって夢じゃなくて現実だったじゃない」  タラリ。  二人が背中を滑り落ちる冷や汗を感じた時だった。 「くぉらああ!」  遠くで怒鳴るは聞き飽きた声。  一瞬びくっとした隣で、アリスの部長は笑う。 「あら、今更来て何の用かしらね?」  その強気な科白に、アリスは頬を緩めた。 「……はい!」  アリス達は明るい顔で小屋を出て、ヤマネ、帽子屋、チェシャの横に律儀に並んだ。  それぞれの顔は、昨夜と異なり晴れやかで爽快だった。  バッチリ髪型を決めた校長が、五人の元へ駆け寄って来る。 「はあ……はあ……」 「血管切れるよ?」 「やかましい! お前達、これはど、どういうこ、ゲホゲホッ」 「校長先生、落ち着いてください」 「落ち着けるかああ! これは、どういう、ことなんだね!」 「小屋ですよ。お引越しです」  ヘラリと笑い、ヤマネが指差した先にはエサの貯蔵庫がある。  材料と工具と、飼育用具。  昨夜、青年二人が中庭に用意してくれたものが、アリス達の最後の道を繋いでくれたのだ。 「──ッ。八田、五月女、有本、横峰、ついでに卒業生の山根! こんなことをして、ただで済むと思っているのかね!?」  校長のその言葉に、面々は嫌そうな顔をした。  そして。  ザッ。  一歩踏み出して、五人で不敵な笑みを見せる。 「私はアリスです。間違えないでくださいね!」 「はいはいオレも。チェシャって呼んでいいよ」 「あたしはクイーン。次そう呼ばなかったら首はないわね」 「一応、俺も帽子屋で」 「あ、俺昨日ヤマネになったの。ついでによろしくねえ」  中庭に、凛と響き渡る宣言。  はっきりと、澄み渡るような声でアリス達が言ったので、校長は最初すぐには返答できなかった。
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